広めるのは止めてください!

 それはギルド登録を終え、ホッと心の中で一安心していた時のことだ。


「へー、依頼もこの指輪があれば確認できるんだ。便利だなぁ・・・」


 ギルドの隅っこのテーブルに陣取り一心不乱にパネルをスクロールしていく。採集依頼、討伐依頼、護衛依頼、調査依頼、お手伝いの依頼。種類も様々で、依頼ランクも低いものから高いものまで色々だ。

 冒険者のスタートはランクF。倒した魔物や依頼達成数、依頼難易度等から指輪が自動的に算出し、ランクは上昇していく。

ちなみに、最高ランクはSランクらしく世界中で二人しかいない(らしい)

 そうやって色々と調べていると──


「た、大変だ!」


──誰かが勢いよくドアをバン!と開け放ちそう叫んだ。


「何事ですか?」

「南の枯れ木の主魔物がいただろ!?」

「その魔物に関しましては現在Aランク冒険者を集めている途中で」

「違う!もう集めなくていいんだよ!」

「はい?」

「ヤツは倒された、倒したのは全身真っ黒の狐面を被った人間だ!武器は黒い刀。商隊が襲われている所にいきなり現れあっという間に切り刻みこちらへ向かったそうだ!」


・・・うわぁ。ものすごい身に覚え有るんだけど。寧ろ身に覚えしかない。よし、逃げよう!そうしよう!というか、やめてください!広めないでください!


 などと考えながら面をつけ、こっそり椅子から立ち上がり、素早く走るためにぐっと足に力を込めていると影から小さな手が伸び、私は自分の影に引き込まれた。

 ズブズブという音と共に私は自分の影に入り込んだ。


「こんなことができたんだ・・・。ありがとう、ラック。おかげで助かったよ」

「気にすることはない。主を助けるのは従魔の役目」


 そういいながらもラックの変化の少ない表情が自慢気になったのも見逃さない。なので、ここぞとばかりに撫でる。


「それでもありがとうね!」

「主、子供扱いはやめてくれますか?私はもう大人。一人前の八咫烏です!」


 少々興奮ぎみにふんす と鼻を鳴らす彼女は愛らしかった。妹に欲しい。


「ハイハイ、分かった分かった。それで、ここは?影の中ってことは分かるけど・・・」

「流さないでください!ですが、流石主です。いきなり影に引き込まれ狼狽えないとは・・・。その通り、ここは影の世界です。我々八咫烏はその容姿ゆえ、目立ち、狙われます。それを憐れに思われた神達がこの能力を授けたとされています。」

「あー、まぁ脚が3つだと嫌でも目立つもんね。親切な神様もいるんだね」

「ええ。心優しい方です・・・。この世界は全ての影と繋がります。制約はいくつか在りますが移動に関してはそこそこ万能ですよ。」


 さっきののほほんとした気配はどこへやら、無表情に戻ったラックはキリッとした顔で説明をした。可愛い。

 近くの影を覗くとギルドの内装が見えた。少しだけ気になり近くに寄ると会話も聞こえてきた。


「───で一瞬で細切れにしたんだよ!抜刀も納刀も全然見えなかったんだ!」

「あれを一瞬でって、しかもAランクが必要な魔物だったよな?」

「ああ。Bだと5分持てば良い方だとよ」

「かぁー!Aランク確定だな───」


 ・・・まずい。非常にまずい。


「主、指輪が光ってます。」

「え?」


 嫌な予感がする・・・。心の中で大いに騒ぎながらパネルを呼び出すと。

【情報の更新が完了しました】

という文字が。

 ラックも見れるように不可視化を解いて恐る恐る、レベルとランクを見ると。


「ええ・・・。」「おお!」


レベルは43に、ランクはAランクに変わっていた。討伐した魔物はレッドウルフルズだけだったのにオールドツリーエレメントという表記が増えていた。


「うそ・・・。」「流石ですね!」


 RPG系のゲームもしてきた私にとってレベル上げが如何に大切で大変かも知っている。

それだけに一気にここまで上がるのは驚愕であった。まるで、格上のボスを1レベルの時点で倒したような。考えれば考えるほど、自分の規格外さが伺える。






──呆然としたあとに、深く溜め息が出てきたのはしょうがないと私は思う。

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少女に幸せは訪れるか 夜空 @argo3208

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