猫のいる喫茶店

中谷キョウ

猫のいる喫茶店

 会社帰りに乗る電車はいつもきまって終電だった。


 たびかさなる残業と終わらない仕事でへとへとになった身体を無理やり動かして駅へと歩を急ぐ。


 社畜の僕には時間がぜんぜん足りない。朝は8時30分に出社し、終電ギリギリまで働く。昼休憩もほとんどとれないし、トイレも限界まで我慢しなければならなかった。


 それほどまでに僕へ振られる仕事が多いのだ。ただでさえ忙しい職場なのに断れない性格のせいで仕事は毎日どんどん積まれていく一方だ。


 周りの人は誰も助けてくれない。いや、誰も助けようとはしない。

 みな、自分が大事なのだ。会社では僕以外の人もたいてい忙しく他人の仕事を手伝えば自分が終電になってしまう。


 だから、僕が忙しくする姿を見ても知らんぷりだ。


 急いでたどり着いたホームには2種類の人がいた。


 1種類目は私服の若者だ。

 大学生か社会人かはたまた高校生かどうかはわからないが彼らは大きな口を開けて仲間と談笑したり、スマートフォンに視線を落としてSNSやゲームアプリなどを楽しんでいる。


 残りの1種類は僕と同じ人種だ。僕らはきまって疲れ果てた顔をして、くたくたのビジネススーツとネクタイを身にまとっている。それが僕らの標識でトレードマークだった。


 なにが、彼らと僕らをへだてているのだろう。

 疲れた脳みそではそんな単純なことも考えることができなかった。


 まぁ、学生ならどうせ数年後には僕らになるのだ。今のうちに楽しんでいればいいさ。


 そう思っていると気が楽だった。


 やがて終電を告げるチャイムがホームに鳴り響く。

 電車に乗り込みボーとしながら街の明かりに彩られた景色を眺める。深夜の歓楽街は明るく住宅街は暗い。それは当たり前のことだったけど、疲れ果てた僕には目に映る何もかもが新鮮で刺激的だった。


 ふと、僕はスマートフォンを取り出した。周りにいる若者と同じようにSNSやゲームアプリがしたいわけではない。少し昔がさびしくなっただけだ。


 僕はいわゆる上京組だ。生まれは関東ではなくもっと東の方で地方の大学に通い就職と同時に上京した。ほんの2年前のことだ。あの頃はよかった。はじめての東京。はじめての一人暮らし。子どものように毎日がドキドキとワクワクでいっぱいだった。


 LI●Eアプリを起動させて僕はとある人のアイコンをタップする。


 そいつは僕の古い友人だ。僕と同じように東京へ上京し、僕と同じように東京生活をドキドキ、ワクワクしながら始めたいわゆる親友だった。


 彼とは何度も東京で遊んだりしたのだが、仕事が忙しくなるにつれ疎遠になり、もう半年以上連絡を取っていない。僕はご覧のとおり社畜だし、彼も負けず劣らない社畜だった。


 僕は彼とのトークへ文字を打ち込む。内容はえーと……『よぉ、元気か?』でいいか。


 いや、ここは『起きてる?』だろうか。


 どうやら僕の干からびた脳みそは彼とどんな会話をしていいのか思い出せなくなってしまったようだ。


 何度かメッセージを打ち込もうと思っては消しを繰り返した。まるで片思いをしている思春期の女子みたいだな。


 昔はこんなんじゃなかった。もっと自然に彼と連絡を取り合えたはずだ。昔と何が変わってしまったのだろう。やはり、疲れてしまったせいなのか。


 何度か文章を起こしてみたがしっくりこなかったのでやめることにした。


 明日にしよう。


 時間的にはもう今日だけど、寝て起きた明日にしよう。明日仕事が終われば僕の数少ない休日がやってくる。そこで身体を休めてから改めて文章を考えよう。なにも疲れ果てた今にやるべきではなかったのだ。 


 僕はそっとスマートフォンを閉じようとした。


 その時だった。


「あれ?」


 サイレントモードにしたスマートフォンがブルブルと震えた。

着信ではない。LI●Eだ。LI●Eの通知がきている。


 慌てて開くと発信者はまさに僕が連絡をとろうと思っていた彼からだった。


『よぉ、元気か?』


 そこに書かれていた文面はさっき僕が考えたものとまるきり同じだった。けれども、なぜか、少しだけ気持ちが救われた気がした。たった一言で半年もの間、彼と僕の間に詰まっていた何かがいっきに氷解したのだ。


『忙しいか? 忙しいお前にいいところを紹介しよう』


 彼の文は僕の返信を待たず次々とやってきた。


 返信しよう。そう思ったが指が動かなかった。けれども、脳は生きている。目が動いている。矢次にくる彼の言葉を疲れた脳みそへと詰め込んでいく。そして、僕は電車が目的地にたどり着くまでひたすらメッセージを読みこんだ。ほんの数分の出来事だったけど、僕には十分な出来事だった。


 電車からホームへと降りるとき、僕はようやく彼に返信を打つことができた。


『ありがとう、今度行ってみるよ』


 こうして、僕こと木下健司は喫茶店『ノアゼット』へ行くこととなった。


***


 東京都内。都心からやや外れたところにその目的地はあった。

 自宅から電車に揺れること数十分。最寄りの駅から十数分。駅前の小さな歓楽街を抜け出てオフィス街までやってくると目的地は目と鼻の先だ。


 関東出身の人が見れば地味。地方都市出身の僕から見ると十分に都会。僕の目的地はそんなのどかな場所に存在した。


「ここかな」


 足を止める。事前に位置は調べ済みだったのに少しだけ迷ってしまったのは内緒だ。


 だが、雑居ビルのすきまにひっそりと隠れるように看板を置くなんて見つけてほしくないといっているようなものだ。もしも、僕がこの付近の住人で日常的に歩いていれば気にも留めなかっただろう。


 そんな看板には白いチョークでたしかに目的地の名前が書かれていた。


 喫茶店ノアゼット。


 名前からは想像できないとは思うけど、このお店はただの喫茶店ではない。社畜の僕が数少ない休日を費やしてでもくるようなそんな場所だ。


 僕はビルのすきまをぬうようにして路地へと入り込むとようやくお店の外観へとたどり着いた。


 ノアゼットはよくあるオープンなカフェではなく硬派な喫茶店みたいだ。オープンテラスはなく窓には白いカーテンがかけられているため、店の様子はわからない。


 ただひとつだけ。入口の扉に掛けられたOPENという文字がこの喫茶店が営業していることを告げている。


「ここが緒方の言っていた癒しスポットなのか……」


 ごくりと唾を飲み込む。僕の友人、緒方よりこの喫茶店のことを聞いたのだ。なんでも疲れた時にこの喫茶店で過ごすと良いらしい。理由はわからないが僕と同じ社畜である緒方が言うのだから間違いがない。


 モダンでおしゃれな看板をくぐり抜けてから初めて入店する。


 カランカラン。


 どこにでもありそうな乾いたチャイムの音が鳴り響いた。続いて若い女性の声が聞こえた。


「いらっしゃいませ!」


 パタパタとやってきたのは声のとおり若い女性だった。年は僕より下、おそらく大学生とか高校生でこの店のアルバイトなのだろう。


 彼女は僕をパチクリとひととおり眺めると驚いたような顔をした。


「あれ? もしかしてお客様、当店ははじめてですか?」

「あ、はい。そうですが……なんでわかったんです?」

「あはは……うちはぜんぜん目立ちませんから常連客くらいしかこないんですよ。だから、はじめていらっしゃるお客様は顔を見ればだいたいわかっちゃうんです」


 そう、苦笑いしながらも彼女は僕を店内へといざなう。


 店内はシックなイメージだ。


 クルミ色を基調としたテーブル席が複数あり、店内は割と明るめで奥にはカウンター席がある。客は僕を合わせて3人。折り目正しいタキシードを着た初老の男性とちょっと目つきがきつそうな美人さん。休日の午後だというのにあんまり繁盛はしていなさそうだ。


 ここが癒しスポット?


 彼女に案内されながら僕は疑問に思った。緒方の言うことに間違いはない。それはこれまでもそうだったしこれからもそうだと信じたい。けれども、今のところごくごく普通の喫茶店だ。僕にはここが緒方の言う癒しスポットだとは思えなかった。


 もしかして、間違えた?

 落胆するが来てしまったものは仕方がない。当初の予定どおりここでゆるりとした時間をすごそう。


 そう思っているとふと、気になるものが壁に掛かっていることに気付いた。


 コルクボードだ。ドライフラワーがあしらわれたコルクボードには名前と「出勤」「やすみ」といったマグネットが張り付けられていた。


 これはあれだ。昔行ったメイド喫茶でも見たお目当てのキャストが出勤しているのかわかるやつだ。しかし、ここはメイド喫茶ではないはずだ。目の前のウェイトレスの制服は白いカッターシャツに黒いエプロンベストといういわゆる普通の喫茶店風だ。それに彼女の胸元につけている名札には逢沢と書いてあってコルクボードに載っている名前とはまったくことなっている。


「もしかして気になるコとかいます?」


 視線に気づいた彼女……逢沢さんがそう問いかけてきた。

 気になる子? やっぱりここはメイド喫茶みたいなものなのか? とすると緒方の言っていた喫茶店は間違いなくここなのか?


「えーと……」


 僕が答えに窮していると「なーご」と猫が足に顔をすりつけてきた。もふっとした感触が足にまとわりつく。なんだかくすぐったい。


 まぁそれはおいといて、僕は緒方から教えられた喫茶店の情報はまったくといっていいほどもっていない。だから、ここが本当に目的地なのかはいまだに答えがでないのだ。やっぱり、少しは自分でも調べるべきだったかな。


 それにしても先ほどから猫が足に顔を何度もすりつけてくる。まるでここは俺の領域だと主張するかのようだ。


って猫? なんで猫がここにいるんだ?


「あら、ふふっ……珍しいですね、このコに好かれるなんて」

「へ?」


 逢沢さんはそういって僕の下にいた猫へと手を伸ばして抱きかかえる。すると、やや太り気味な猫と僕とが対面した。


 綺麗な黒と白の毛並み。身体の上半分は黒で下半分は白。三白眼のせいでややというかかなりこわもてだ。


「このコはオズ。これでもうちの看板猫なんですよ」

「なーご」


 オズ。

 看板猫。


 なるほど、わかった気がする。ここは猫カフェなんだ。つまり、緒方の言っていた癒しスポットとはここで間違いなかったのだ。


 目の前にいるオズはなんというか小デブでこわもてな猫だけど、よくよくみるとかわいらしい。僕がそっと手を近づけるとオズは「にゃあ」といって逢沢さんの腕から逃れる。


 どうやら、お触りは厳禁のようだ。オズはさきっぽだけ白いしっぽをフリフリしながら喫茶店の奥へと逃げてしまった。


「ではお客様、こちらの席へどうぞ」


 そのやりとりを見ていた逢沢さんはクスッと小さく笑うと僕を席へと通してくれた。


 オズには逃げられたけれど、たぶん緒方の言う通りここはかなり良い癒しスポットに違いない。僕はそう確信した。


***


 ブレンドコーヒーの香りを楽しみながら本のページをめくる。

 ゆったりとしたテンポのジャズだけがこの店内で時が流れていることを告げている。


「なーご」


 オズが再び僕の元へとやってきたのはそんな風にゆっくりしていた時だった。

 頼んだ熱いコーヒーを飲みながら、本のページをめくっていたとき、足元にオズの気配がしたのだ。


「さっきは逃げたのに、気まぐれな奴だな」


 オズは僕の右足が気に入ったのか執拗に顔を擦り付けてきた。


「こいつ、幸せそうな顔しやがって……そうだ、遊んでやろう」


 せっかくの猫カフェで猫がわざわざじゃれついてきてくれているのだ。これは遊んでやらないと失礼だな。


 テーブルの上には備え付けらしい猫じゃらしがあったので試しにオズへと向けてやってみることにした。


「なーご?」


 オズの前に投入してみたが反応はいまいち。軽く鳴き声を上げるとオズは猫じゃらしを無視して僕の足へと再び突撃を繰り返し始めた。


「あれ?」


 思ったとおりの反応ではない。普通の猫なら猫じゃらしを見つけた途端、往年のライバルのようにガンを飛ばしけん制するはずだ。しかし、オズにはそれがない。珍しい猫もいたもんだ。


 僕はそっとオズのふくよかなおなかを見つめる。どうやら、オズの性格はおなかに出ているらしい。


 けれども、猫じゃらしで遊ばない猫なんているのだろうか。もしかしてオズは気づいていないだけではないのか? そう思って僕は何度も猫じゃらしをオズの目の前でフリフリさせてみた。


「あ、オズに猫じゃらしはまったくダメですよ。なにせ、うちのボスですから」


 僕が悪戦苦闘していると逢沢さんがやってきた。


「ボスですか?」

「ええ、いつも無愛想で決まった人にしか懐かないですし、みてのとおり猫じゃらしには無関心なんですよ」

「僕はもしかして……懐かれてます?」

「はい、それはもうバッチリと」


 懐かれてる。

 動物に懐かれるなんて悪い響きではない。僕はそっと手を伸ばしてオズに触れようとした。


 手がもふもふへ届きそうになる一歩手前。オズはいきなり逃げていった。


「なーごっ」


 しかも、少しばかり怒ったような声で鳴いている気がする。


「えーと、これでも懐かれてますか?」

「ええ、私が初めてココに来た時よりもかなり懐かれてますよ」


 逢沢さんの言葉を聞いて僕は失笑する。どうやら、オズはかなり気まぐれで人を選ぶ猫のようだ。こちらが触りたいと思ってもプイとそっぽをむいてしまう。


「なーご」


 オズは少し離れたところからこちらをうかがっている。僕が手を引っ込めるとおそるおそる足元へとやってきた。たしかに嫌われてはいないようだ。


「よし」


 急に触ろうとしたのが間違いだったのだ。僕は猫じゃらしをあきらめオズの好きなようにさせてみた。オズはひたすら僕の足元をぐるぐると周っては顔を擦り付けて、を繰り返している。わずかにふわっとした感触が足元に絡みついてきてなんだか気持ちがいい。


 正直、僕の知っている猫カフェのイメージとはずいぶんと違う。僕は一度も猫カフェにはいったことはないが、なんとなく猫とじゃれつくような場所を想像していた。


 猫じゃらしがあって、猫と遊ぶようなイメージだ。


 しかし、この喫茶店はそんなイメージとは全然異なる。この喫茶店ではあくまで主体は喫茶であり猫はただのおまけ。そんな気がする。実際に僕以外の客の様子を見てみるとそのイメージが伝わってくるだろう。


 店内には僕以外の客が2名いる。僕が来た時からずっといる客だ。


 そのうちのひとりであるソファ席に座っているタキシードの男性の横には茶トラの猫が一匹いる。どんな街でも一匹はいそうな感じの茶トラはソファの上でヒマそうに丸くなっていた。肝心の男性の方はコーヒーを飲みながら新聞を広げており、猫と遊ぶ気配はまったくない。


 同様にテーブル席に座っている目つきのきつい美人さんの足元には真っ白で上品な猫がしっぽを揺らしているが美人さんは文庫本を読んでいるのみである。


 猫のいる喫茶店。


 巷にある猫カフェのような場所ではなく。ただそこに猫がいるだけの喫茶店。

 もしかしてここはそういう喫茶店ではないだろうか。


 そう思った僕は足元にオズを感じながらまだ暖かいコーヒーをすすり、本の世界へと飛び込んだ。


***


 どれくらいの時間をその喫茶店で過ごしただろうか。物語は終わり残っていたコーヒーも冷め切っていた。


 あれだけしつこく僕の足元を徘徊していたオズも疲れたのか椅子の下で丸くなっていた。


 もしかしたら今ならオズに触ってもいいのかも。

 僕はゆっくりと手を伸ばそうとする。


「ダメですよ、お客様。そんな強引に触ろうとするとまた逃げられますよ」

「え? ダメですか?」


 僕はずっとオズに心を許しているというのにこれではまだ駄目なのだろうか。


「そんなにしょんぼりしないでくださいよ。きちんと秘策がありますから」

「秘策?」

「はい、おやつです」


 そう言って逢沢さんは小さなかつお節を持ってきた。おやつ、つまり餌付けのようなものだろう。これなら気まぐれなオズも僕に振り向いてくれるかもしれない。


 さっそく僕はオズに与えてみることにする。


 右手にかつお節を持ってオズの領域である椅子の下へ侵入する。入った瞬間、オズの右耳がピクリと何かを察したように動いた。そして、目を開けるとのっそりとした動きで僕の右手を視界にとらえた。


「なーご」


 オズが動いた。ちょっとデブなため動きは緩慢だが、あきらかに僕の右手にあるかつお節をめがけている。


「よし、引っかかった」


 餌に食いついたオズを椅子の下から引っ張りだし少しづつ誘導する。椅子の下から離れたところでようやくかつお節を与える。


「なーご、なーご」


 オズは喜んでいるのか、右手でかつお節を受け取るとすぐさま噛み始めた。しっかりと噛んで時には舐める。その姿を眺めているだけでも十分に幸せなのだが、僕の目的はただひとつ。オズに触れることだけだ。


 幸せそうにかつお節にかじりつくオズにゆっくりと手を伸ばす。食事中なのにごめんよ。


 僕の右手はオズの喉に触れる。オズは逃げない。やった、どうやら作戦はうまくいったようだ。僕はそのままゴロゴロとオズの喉を転がしてみる。するとかつお節を噛むのを中断し、気持ちよさそうに僕の手に身を預けてきた。


「やりましたね、お客様」


 心配そうに見ていた逢沢さんもホッと胸をなでおろす。ここまで面倒を見てくれるなんて逢沢さんはいい人なんだろう。職場にはこんな人はいないので少しだけ心が洗われた気がした。


「ほぅ、オズがおとなしくゴロゴロされているとは珍しいこともあるもんだ」

「へぇ、あなた新顔よね。気難しいオズに懐かれるなんてうらやま……いえ、なんでもないわ」


 気づけば、タキシードを着た男性と目つきのきつい美人さんが僕たちの周りへ来ていた。


 どうやら、気まぐれな看板猫であるオズがゴロゴロされているのが珍しいらしい。


 正直、来た時からオズには好かれていたから実感はあまりわかないけど、逢沢さんや周りの人の反応を見る限り本当に珍しいことらしい。


 ひとしきりオズの喉をゴロゴロして満足したとき、何かを察した風にオズは身体を引っ込めた。オズのサービスタイムは終わったようでかつお節をひったくるとそのまま椅子の下に再度引きこもってしまった。






「お会計お願いします」


 オズに触れた後、コーヒーのおかわりを頼んでまた数十分ほど時間をつぶした。オズへ再び触れることはできなかったけど、それでも良い休暇だった。


「お客様、本日はいかがでしたか? こんなさびれた喫茶店でも気に入っていただけるとうれしいのですが」


「ええ、また来たいと思います」


 僕は本心からそう答えた。





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