第94話 ズレータの刀
「ウィンフィールド・ピクミン。お前のことは知っているぜ! ギルドの連中がお前の職業を必死で探ろうとしているからなあ!」
俺が冒険者ギルドで登録している職業は『
でも、常人のままで魔王討伐なんか出来るわけがないよな。ギルド関係者が俺の職業を必死に調べているだろうことは知っていた。だから驚きはないって。
確か冒険者ギルドの中じゃ、俺の職業を正確に当てた者には報奨金を上げるとかやってるんだっけ。
「ギルドの連中はお前が家に引き籠ってばかりで、調べる機会がねえって嘆いてるぜ。お前、3番ギルドの出頭要請にも出てないんだってなあ!」
こいつ。俺のこと良く知ってるなあ。
確かに3番の冒険者ギルドからは出頭要請が何度か届いていた。3番の冒険者ギルドマスターとは、一年生の女の子をリッチから救いだした時に縁が出来ている。
あそこのギルドマスターは強ければいいって考えの持ち主で、リッチを撃破した俺を高く買ってくれているんだ。ただ、面倒な性格の人だから俺は避けてるんだけど。
「ズレータ、お前も強力な助っ人を用意した――ごほっ、あっ、なんだ、これ」
「あ。やっと? 思ったよりも時間が掛かったな」
こいつ、意外とタフだったな。
ただの人間だったら、数秒で動きを止める毒なんだけど。
「あ? てめ、何しやがった……」
エバンスがごほごほと咳している。とっても苦しそうだ。口を押さえた手のひらからは真っ赤な血が見える。そのまま顔色が悪くなって、すぐに片膝をついた。あいつは両手で喉を抑えて、何かを吐き出そうともがいている。
その姿を見て、俺は全身から力を抜く。もう剣豪の補正、開眼も必要ないか。
「ど、毒か……てめえ、小癪な真似を……」
ひゅーひゅーと言葉にならない声を上げて、エバンスが倒れ込む。
断続的に吐血し、身体をビクビクと痙攣させながら、あいつの目が俺が持つズレータの刀に向いた。
「その様子だと、お前の命は持って30秒だよ」
苦しむエバンスへ近づき、刀の切っ先を見せる。あいつの鼻に近づけて、嗅がせるように。すると、あいつは顔を背けた。
「……この毒、なんだ」
「ピンテン草」
「超大型動物用の劇物じゃねえか……どこで、手に入れた……」
エバンスが血走る目で俺を睨みつける。
だけど、もう何も怖くない。こいつはもう無力だ。
もう立ち上がることも出来ないだろう
「さて、お前には二択を与える」
その声にエバンスが絶望を予感させる唸り声をあげる。だけど、言葉にはなっていない。今、地獄の苦しみを味わっているだろう。
「今、死ぬか。それとも……」
別に他の戦い方でも良かったんだけどな、今回はお手軽さを考えて毒にした。
真っ当に
あの人に——見られているからなあ。俺の戦い方は見せたくない。
「生きたまま、あそこの公爵姫に引き渡されるか、どっちがいい?」
「——気付いてたかあ!」
屋上に繋がる金属の扉がバタンと蹴飛ばされ、彼女は姿を現した。
色褪せた茶色の外套を羽織って、深い青色でつばの広い 帽子を被っている。俺よりも小さいのに、その身体から発せられる熱量ってのに圧倒される。
「毒を使うとは案外、卑劣な男だな、ウィンフィールド!」
「使える物は何でも使える主義なんで」
その堂々たる姿はまさに女王様。
ホーエルン魔法学園の主、ユバ・ホーエルン。全ての冒険者ギルドの上に立つ賢者を見つめて、エバンスは気を失った。
——ズレータの刀は、使い物にならなくなった。
だけど、命を助けてやったんだから許せって、押し通した。あいつは険しい顔をして「それもそうだな……」と納得しているようだった。ズレータ、ちょろい。
そして、また。16番冒険者ギルドの1階は大宴会場になっていた。
俺の隣に座るのはユバ・ホーエルン。この学園を支配する賢者だ。ハチャメチャに飲んで誰よりも楽しそうに騒いでいる。
「私の酒が飲めないのか! ほら、ウィンフィールド! 飲め!」
前回と違うのは、不貞腐れたような表情を見せる『上忍』の姿があること、そしてガチガチに緊張した情けない『侍』がいることだろうか。
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【読者の皆様へお願い】
天は二物を与えました? ートリアの日常、黎明魔法学園にて――
https://kakuyomu.jp/works/1177354054896506425
女の子が主人公な新作を書いてみました。
悪銭死闘しながら書いてます。良ければご覧になって見て下さい。
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