第93話 見抜かれる正体
「まだ外に出たこともねえガキが格好つけやがって。ただの生徒が俺に勝てるわけがねえだろ」
エバンスが言う外ってのは学園の外にある迷宮のことだろうな。
最前線で活躍している本物の冒険者たちは俺たちみたいに、ホーエルン魔法学園出身者を嫌っているものが多い。まあ、どうでもいいよな。
「ズレータと友達だったことを恨むんだな! 死ねやあ!」
屋上の床を蹴って、エバンスが接近をしてくる。
おー、早いな。上忍のユリアだって躱し切れなかったその速さ。全部、職業特性によって強化された能力だ。
「痛みは感じねえ! 腹をぶち抜くからな! そこだけは安心していいぜ!
近距離戦闘。
マックスと似たタイプだ。あいつよりも二段は格上だけど。能力が全体的にアップする
「ウィンフィールド! 逃げろ!」
ズレータの声を合図に、エバンスの動きがゆっくりと遅くなる。
剣豪の職業補正、『開眼』を発動。侍系統の職業補正って、視力を上げるのが多いんだよな。ふう、今の俺の目には全部見えている。だから、こうなる。
「躱しやがった!? んな馬鹿な! ただの学生が俺の攻撃を見切りやがったってのか!」
あいつの攻撃は空振り。
普通の生徒だったら、何が起きたかもわからずに死ぬだろう。
「見切るだけじゃなくて反撃もするけどな」
「……確かにお前が侍系列の職業であることは間違いないようだが、学生風情の香りが俺に当たるとでも思ってんのか」
再び俺に突進してきたエバンスのお腹に向かって、刃を振るう。
「ズレータ、見てるか? 侍ってのは、こう戦うんだ」
柔らかいシーツを切り裂くようになめらかに。
それは、侍よりも2つ上の職業である剣豪の技の一つ。
「流星」
刀の切っ先を、空から落ちてくる流れ星に見立て、敵を斬る。
必殺の効果、必ず当たると言う特殊補正付きの技。
「——ッ」
あいつは俺は攻撃が体に当たると感じ取ったのか、後ろへ逃げる。
しかし本当に剣豪の特殊補正は役に立つ。
逃げに徹したエバンスさえ、切れるんだから。
「ほら、当たった」
「……」
あいつは自分の手についた血を信じられないと言うような瞳で見つめる。まさか俺のような学生に傷を付けられるとは夢にも思っていなかったんだろう。
「信じられねえな……この俺が学生に傷を付けられるなんて」
「油断しすぎだよ」
エバンスは冒険者見込みランク8の実力者。
それはつまりこの学園でも有数の実力者であると言う事。当然、学生の中での実力者って意味じゃない。
ギルド職員を含めたこの学園にいる、戦える大人たちの中でもと言うことだ。
「そうだな……ちょっとばかり油断し過ぎていたかもしれねえ。やるじゃねえか、ズレータが頼るだけはある」
あいつは怒りに任せた表情を消して、ただ真面目になって俺を見つめる。
あいつの雰囲気が変わる。それは俺を強者と認めた証である。
その目は冷静に俺と言う人間を分析してるように思えた。よかった、ただの馬鹿ではないらしい。ただのバカならあの公爵姫が雇うわけないもんなぁ
やっぱり、今までのマックスとかと比較すると本物の経験者は違うなあ。
「ウィンフィールド! お前侍の職業なんて収めていたのかよ!」
「うるさい、ズレータ。ウィンの邪魔しないで」
「わ、悪い……ウィンフィールドの奴隷……」
しかし本当に良い刀だ。
これなら俺がやろうとしている力にも耐えてくれるだろう。侍系列の技は多彩だから好きだ。例えば今から俺がやろうとしているこの動きだと……。
「ウィンフィールド!? 思い出したぞ! お前、急に有名になった魔王討伐者か!」
あ、このタイミングで思い出すのね。
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