第92話 大賢者と賭博狂

 公爵姫が探していた人間、エバンスがそこにいる。気性の悪さはマックスと似ているけれど、こいつは何て言うか煮詰まってるんだよな。


「よーお、ズレータ。お前、よくもチクってくれたな」

「何なんだよおっさん! そんなに強いならどうして俺なんかに声を掛けたんだよ」

「賭けだよ、ズレータ。お前が迷宮の先で死ぬか生きるかに、賭けていたんだ」

「はあ!?」


 ズレータにとっては俺とミサキは初対面だけど、俺は良く知っている。

 あいつが最初から黄泉の洞窟に眠る秘宝を狙って、公爵姫に近づいたことも。黄泉の洞窟、最奥に辿り着くには多少の運要素が必要だから、運の良い学生を探していたことも。


「俺は運のいい人間が好きだ。ズレータ、お前は俺が教えた通りに迷宮へ潜り、俺が求めた物を持ち帰った。つまり、お前は勝ち続けたわけだ。そんなお前だから今日黄泉の洞窟を連れていこうと思った。俺も運にあやかれるかなってな。ちょうど今日はあのユバ・ホーエルンがホーエルンを留守にしている」

「……」

「で、そっちの二人は誰だ?」


 エバンスはギルド職員じゃない。

 あいつはホーエルン魔法学園を所有する公爵姫の仲間だ。俺たち学生の顔なんて、一々知らないだろう。


「ウィン。あいつ、さっきより強くなってない?」

「ん? ミサキ、よく気付いたな。あれが職業、賭博狂ギャンブラーの職業補正だ」

賭博狂ギャンブラー? そんな職業があるんだ」

「ホーエルン魔法学園にいる生徒で賭博狂ギャンブラーはいないから、ミサキが知らないのも無理はないかな」

「ふうん」


 一般的に知られているのは賭博士ギャンブルの方だ。賭博狂ギャンブラー賭博士ギャンブルの上位職業で、自分の命すらも賭博の対象にして楽しむような逝かれた人間が手に入る職業である。


 命を危険にさらせば晒す程、能力が上がる。

 今、この男はホーエルンを支配する賢者ユバ・ホーエルンに真っ向から敵対するという道を選んだ。さぞや、能力も高まっていることだろう。


「おい。どうしてそっちのガキ、俺の職業を知ってるんだ? ズレータ、またお前がちくったのか?」

「し、知らねえよ! 俺はあんたの職業までは知らなかった!」

「だよなあ。ズレータには言ってないからなあ」

「そうだ、俺は知らなかった!」


 狼狽するズレータ。ちょっとビビりすぎじゃない?


「さて、どこでユリアと繋がったのか知らないが、ユリアが現れたなら、ユバ・ホーエルンにも俺のやっていたことが全部知られたって考えた方がいいな。はあ、困った。早く逃げねえとなあ」


 こきこきと腕を鳴らし、あいつは近づいてくる。


「だったらなんで近づいてくるんだよ!」

「そりゃあズレータ。口の軽いお前をぶっ飛ばすためだよ。ユバ・ホーエルンは急いで帰ってくるだろうが、あいつも全能じゃねえ。まだ数時間は掛かる筈だ」


 その通りだ。

 ユリアも俺たちに言っていた。情報が届いたら、ユバ様は即座にホーエルンに帰ってくるはずだって。でも、それがいつになるか分からないとも言っていた。

 

「俺の職業は賭博狂ギャンブラー。今日の運は最高だ」


 エバンスを仕留めに出かけたユリアに無理を言って付いてきたのは俺たちの方だ。この状況は、割と自業自得である。

 ズレータはまさかユリアがやられるとは思っていなかったようだ。


「なあ、ズレータ。お前があいつと戦う?」

「は? 何言ってるんだよウィンフィールド! あれを見てたろ! 俺が勝てるわけがないって! 」

「負けてもいいから、戦わない? 眼鏡も新調してるみたいだし、前よりは強くなっただろ?」

「む、無理だ。眼鏡ぐらいでどうこうなる相手かよ!」


 ズレータは白旗を振っている。

 残念だなあ。

 少し勇気を出したら、今回で次の職業へ進化が出来たかもしれないのに。


「まさか。俺とやる気? ただの生徒が? ……そう言えば、ウィンフィールドって名前。どこかで聞いたことがあるな。どこだったかな」


 公爵姫のお願い。

 それは公爵姫の目を盗んで、やりたい放題やっていたエバンスを見つけることだった。

 だけど、公爵家関連のイベントは達成すれば冒険者見込みランクが確実に上昇する割の良いイベントだ。エバンスを見つけるだけで、終わるわけがない。

 こいつはプレイヤーである俺たちが倒さないといけない壁である。


「ミサキ。一つ、お願いがある」

「何? 僕がウィンの代わりに戦うって話?」

「違う。ズレータを守って欲しいって話。ちなみにこれはパーティリーダーとしてのお願いね」

「……分かったよ、ウィン。はあ、ズレータ・インダストル。僕の後ろに来て」

「お、おい。奴隷、お前……ただの神官だろ、何するつもりだ」

「ズレータ。ミサキはお前よりも遥かに強いから安心しろ。後はお前の刀、ちょっと借りるから」


 刀を構える。

 構えなんて、習ってないから酷いもんだ。さて、あっちももういいな。ミサキがズレータと一緒に屋上の隅に下がって、神官らしく障壁の魔法を張った。


「ウィンフィールド、どこかで聞いたことのある名前なんだか思いだせねえ……。それよりお前、何の真似だ? どう見ても侍じゃねえのに、刀なんて持ちやがって」


 こきこきと拳の骨を鳴らす、賭博狂ギャンブラー

 賭博狂ギャンブラーと戦うのは、この世界に転生して初めてのこと。


 だから、正直少し楽しみだった。こいつの戦い方は知ってるけど、賭博狂ギャンブラーの特性を活かしてどう戦うのか。


「びびってるの? 来いよおっさん、遊んでやるから」

「——決めた。お前も殺す」




――――——―――――――———————

戦闘回に続く。


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