遊園地デート
マサキ(幼)「じゃあな、もう迷子になんなよ」
のぞみ(幼)「待って! 今度会ったら、また一緒に遊んでくれる……?」
マサキ(幼)「(仕方なさそうに)ああ、今度会ったら、な」
のぞみ(幼)「やったあ! 約束だからね、絶対だよ!」
マサキ(幼)「はいはい。それじゃあな」
のぞみ(幼)「うん、またね! 約束、絶対守ってね!」
ガヤ〈遊園地〉
マサキ「……(ベンチにもたれてぐったり)」
のぞみ「大丈夫、マサキくん? 疲れてるみたいだけど」
マサキ「誰のせいだと思ってんだよ」
のぞみ「えー、なんのこと?」
マサキ「苦手だっつってんのに絶叫系アトラクションを五つもハシゴさせたのは
どこのどいつだ?」
のぞみ「はいはーい、わたくしのぞみちゃんでーす。
マサキくんが楽しんでくれるかなー、と思って」
マサキ「『苦手』ってはっきり言ってるだろうが!」
のぞみ「ねえねえ、次はあれ乗ろうよ!」
マサキ「人の話聞いてねえし……。ってあれフリーフォールじゃねえか!
俺を殺す気か!?」
のぞみ「(真面目なトーンで)そんなことで死ぬわけないじゃん」
マサキ「あっ、わ、わりぃ……」
のぞみ「(少し間を置いて)てなわけで、次はあれにけってーい!」
マサキ「なにが『てなわけで』だ!」
のぞみ「そんなに怒鳴らないでよー。変な目で見られちゃうよ」
マサキ「……!」
モブ女「ねえ、あの人一人でしゃべってるけど……」
モブ男「ああ、近づかない方がいいな……」
のぞみ「ほら」
マサキ「……(ため息)」
マサキ 俺の名前は大谷マサキ。フツーに高校卒業してフツーに大学入って
フツーに上京したフツーの人間だ。
そんなフツーの俺がなぜ今、周りから白い目で見られているのか。
いやそれ以前に、なぜこんな騒がしいクソガキと二人で遊園地に来て、
絶叫地獄を味わわなければならないのか。
事の発端は、今朝にさかのぼる……。
SE〈目覚まし時計の音〉
SE〈目覚まし止める〉
マサキ「ううー……」
のぞみ「おはよう、マサキくん」
マサキ もう朝か……ぜんっぜん寝た気がしねー……。うるさく言う奴もいないし、
もうちょっと寝てるかな。一人暮らしだとこういうところが
楽でいいよなあ。
……え?
SE〈飛び起きる〉
のぞみ「あっ、起きた。もうっ、スルーなんてひどいよー。
挨拶されたら返すのが礼儀ってもんでしょ? おはよう」
マサキ「お、おはよう……で、どちら様ですか……?」
のぞみ「やっぱり覚えてない、か……まあしょうがないよね。
あたしはのぞみ。最近死んじゃったんだけど、
マサキくんにどーしてもお願いしたいことがあって、会いたいなー、
って思ってたらここにいたの。
早い話、あなたに憑りついた――幽霊」
マサキ「……はいっ!?」
マサキ いきなり現れた自称幽霊のクソガキ――のぞみのお願いとは、
一緒に遊園地に行くことだった。もちろん、それで素直に「そうですか」
と頷くバカはいない。
だいたい、不法侵入した挙句「自分は幽霊です」って、
どんな悪い冗談だよ。
当然、お願いとやらは断った。……断ったのだが、このクソガキ
しつこい上に人の話を聞きやしねえ!
結局こっちが根負けして、遊園地に行くハメになっちまった。
こいつが幽霊であることもまったく信じていなかったが、俺以外の人間には
見えてねえし声も聞こえてねえし、よく見たらちょっと浮いてるしで……
信じざるを得なくなってしまった。
そんなこんなで、クソガキのわがままに振り回され続けた俺は今、身も心も
ズタボロになっている。
SE〈立ち上がり、歩き出す〉
のぞみ「おっ、乗る気になってくれた?」
マサキ「帰る」
のぞみ「ええー、なんで!? まだ遊ぼうよー」
マサキ「俺はもう疲れたの! そんなに遊び足りないなら一人で遊べ」
のぞみ「やだあ! マサキくんと一緒に遊びたいの!」
マサキ「だあああ、もう! なんで俺に構うんだよ!」
のぞみ「……だって。(呟く)約束、したじゃん……」
マサキ「なんだよ?」
のぞみ「(不機嫌そうに)なんでもない」
マサキ「……? とにかく、帰るぞ」
のぞみ「えっ……ええっ!? ヤダってば! ねっ、せめてあと一コ!
あと一コなんか乗ってこ!」
マサキ「却下」
のぞみ「ぶー、ケチ。……あれ? ねえマサキくん、あれ……」
マサキ「だから、もうなにも乗らないって……」
迷子 「パパー、ママー、どこぉ……?」
のぞみ「あの子、迷子かな?」
マサキ「だろうな。……まっ、そんなにでかいとこじゃないしすぐ見つかるだろ」
のぞみ「放っとくの?」
マサキ「俺にはカンケーないことだし」
迷子 「パパぁ、ママぁ!」
マサキ「……カンケー、ないし」
のぞみ「……ふーん」
迷子 「うう……ぐすん」
マサキ「あーもう、しょうがねえな!」
SE〈迷子に近寄る足音〉
のぞみ「……よかった、やっぱりマサキくんだ」
マサキ「おい、どうしたんだ?」
迷子 「ひうっ……うっ、うわああああん!」
マサキ「えっ、ちょっ、なんで泣くんだよ!?」
のぞみ「目つき悪くて怖いもん。ぶっきらぼうだし」
マサキ「泣くな泣くな! 俺が泣かせてるみたいだろうが!」
のぞみ「間違いではないよねえ」
マサキ「おまえはちょっと黙ってろ!」
迷子 「(さらに泣く)うわああああん!」
マサキ「ちがっ、おまえに怒鳴ったんじゃなくて……あーもうっ、悪かったって!」
数分後、泣き止む迷子。
迷子 「……ぐすっ」
マサキ「や、やっと泣き止んだ……」
のぞみ「早い方だと思うよ」
マサキ「それで、どうしたんだ? 親とはぐれちまったのか?」
迷子 「……うん」
マサキ「(ため息)しょうがねえな。迷子センターまで送ってやるよ」
迷子 「ありがとう、お兄ちゃん」
のぞみ「誘拐しちゃダメだからねー」
マサキ「するかボケ」
迷子 「……お兄ちゃん。このお姉ちゃん、どうして浮いてるの?」
のぞみ「よくぞ聞いてくれました! マサキくんってばつっこんでくれないから
寂しかったんだよね」
マサキ「つっこむ必要ないだろ。……って、こいつのこと見えるのか!?」
迷子 「? うん」
のぞみ「おおっ、マサキくん二号!」
マサキ「その呼び方はどうかと思うぞ……。そういえばおまえ、名前は?」
迷子 「ユウタ」
のぞみ「ユウタくんか。あたしはのぞみで、こっちの怖い顔の人はマサキくん」
マサキ「怖い顔言うな」
のぞみ「ふふっ。でも大丈夫だよ。顔は怖くても、すっごく優しい人だから」
SE〈バス走行中〉
マサキ「つ、疲れた……」
のぞみ「まさか親が迎えに来るまで一緒に遊ぶことになるとはねえ」
マサキ「ガキと一緒になって俺を引き止めたのはどこのどいつだよ……」
のぞみ「えー、なんのこと?」
マサキ「……もういい」
のぞみ「でもよかったじゃん。ユウタくんのお父さんとお母さん、わりとすぐ
迎えに来てくれて。「まだお兄ちゃんたちと遊ぶ!」って
泣き出したときは困っちゃったけど」
マサキ「ったく、人の顔見ただけでさんざん泣きわめいてたくせに
なんで懐くかねえ。
……そういえば、昔もこんなことあったっけな」
のぞみ「! 昔、って?」
マサキ「小学生の頃だったかな。ダチと一緒に遊園地に行ったとき、
今日みたいに迷子を見つけたんだ。そのときも話しかけただけで泣かれて、
なだめるのに苦労したな」
のぞみ「でも、その子の親が見つかるまで一緒に遊んであげたんだよね」
マサキ「まあ、仕方なくな。まんま今日と同じだった。
ただ、一つだけ違ってたのは、別れ際そいつがやけに
ニコニコしてたってことだな」
のぞみ「どうして、笑ってたんだと思う?」
マサキ「さあ、よく覚えてねえよ。もう何年も前の話だし」
のぞみ「重要だと思うんだけどなあ、そこ」
マサキ「あのときも今回も、最初は怖がってたくせに懐きやがって。
まったく、ガキの考えることはわかんねえよ」
のぞみ「あたしにはわかるよ。きっとその子は生まれつき体が弱くて、
なかなか外に出られなかったんだよ。
だから遊園地に連れて行ってもらえて、うれしくてしょうがなかったの。
それではしゃぎすぎて迷子になって、おまけに目つきが悪くて
こわーいお兄さんに話しかけられて……だいぶパニックだったと思う。
でも、なんだかんだ言いながらも
最後まで見捨てずに面倒見てくれたから。
伝わったんだよ、マサキくんが優しいってこと」
マサキ「さ、さっきからなに言ってんだよ! 別に優しくしてるわけじゃねえし!」
のぞみ「ううん、マサキくんは優しいよ。だから、会いに来たんだよ。
(小声で)また遊んでくれて、ありがとう」
マサキ「? 今、なんて……のぞみ?」
マサキ 目を向けると、あいつがいたはずの場所には誰もいなかった。
成仏した、のか? ってことは、もうクソガキのわがままに振り回されずに
済むわけだ。
まったく、清々したぜ。……清々した、けど。
マサキ「お別れくらい、言わせろよ……」
SE〈目覚まし時計の音〉
マサキ 翌日、あいつが姿を見せることはなく、いつもの朝が来た。
幽霊に憑かれていたなんて信じられないくらい、フツーの朝。
……本当に、いなくなっちまったんだな。
SE〈目覚まし止める〉
マサキ「ううー……」
マサキ なんか、やる気起きねえな。もう少しだけ、寝ようかな。
誰かになにか言われるわけじゃないし……。
のぞみ「おはよう、マサキくん」
マサキ「……!」
SE〈飛び起きる〉
のぞみ「もう、またスルーした。挨拶されたら返すのが礼儀って言ったでしょ?
もう一回言うよ。……おはよう」
遊園地デート 紺道ぴかこ @pikako1107
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