最終話 サービス

  最終話 サービス


「……」

 夏休み。

 週に一度、学校に出て、部活をやっているらしい。

 みんながみんな、ここを勧めてくれた。

 他にも相談する場所は色々あるけれど……学園の相談室がいいらしい。

 ノックをする。

「どうぞ」

 穏やかで低い、耳にスッと入ってくるいい声を聞きながら、扉を開ける。

 そこには、華やかな人物たちの姿があった。

 三人は女の子。

 一人は、魔女の格好をしている女の子。チョコを咥えながら、隣の……キャラクターパーカーの子と、何かをしている。

 二人ともこちらを見て、目礼をしてくる。

 もう一人の女の子は、こちらをちらっと見て、パソコンに戻っていった。

 そして――男性がもう一人。

 私でも、知っている。

 工藤紫苑という、学園の人気者。

 彼はにっこりと微笑んで、口を開いた。

「ようこそ、相談室へ。……お名前は?」



「なるほどね」

 そう言うと、工藤君は目を伏せた。長い睫毛がドキリとさせられる。

 私の悩みは、身長が低いことだった。

「身長が低いのって、何で嫌なの?」

 魔女みたいな女の子が聞いてくる。

 が、それを制したのは、工藤君だった。

「嫌な人は気になるんだよ、美空」

「そんなものかしら」

「そんなものだよ」

 キャラクターパーカーを着てる人が、手を上げる。

「ここは、あれっしょ。牛乳飲めばいいんじゃないっすか?」

「牛乳などでカルシウムを補給しようとするやつは馬鹿だにゃん。それは骨を硬くするだけだにゃん」

 にゃん!?

 もう一人の綺麗な女の子がそういう。

 そうなんだ。牛乳、ダメなんだ。

「じゃあ白姉さん、何がいいんだい?」

「骨を伸ばすならタンパク質だにゃん。ほら、骨にもコラーゲンとかあるし。それを生成できる、大豆や肉類が足りてないんじゃないかにゃ?」

「肉か、なるほど。お肉は好き?」

 尋ねられ、頷く。

 でも、最近ダイエットで食べれてないとこぼしてみる。

「ダイエット? 細いじゃない」

 魔女の女の子が言うけど、嫌味にしか聞こえなかった。彼女の方がよっぽど細い。

「まぁまぁ。でも、ダイエットで抜いた方がいいのは炭水化物。いわゆる糖質だね」

 え?

「ライスとか、パンとか、うどんとか。朝とか昼はいいんだけど、夜は動かないでしょ? だから、過剰ですぐにエネルギーになるそれは溜まりがちになって、脂肪になる。だから、夜は……米とかパンはあんまり食べない方がいい。それと、肉や大豆はちゃんと食べた方がいいよ」

「弟君の言う通り。肉を食べれば、自然とご飯とかパンの量も減るにゃん。で、肉を食べれば筋肉が増えて代謝が上がるにゃん」

 な、なるほど。

「こういう俺も、少し気を使っててね。一緒に頑張ろうよ」

 そう、気さくに声をかけてくれる。

 本当に、凄い人だ。

 お礼を言って、私は足早にそこを抜け出した。

 ……頑張ろう。

 せっかく、あんな凄い人にアドバイスされたんだから!



 女の子が帰った後、俺はふうっと息を漏らした。

 ダイエットか。ようやく一般的な悩みが来たな。初めてじゃないか、こんなの。

「……紫苑、アンタ本当にダイエットしてるの?」

「食事管理はしてるよ。太らないように」

「ラーメンばっかり食べてるじゃない」

「ばっかりって。その分他を抑えてるからね。問題ないよ。結局のところ、自分のモチベーションというか、意識の高さが大事だから」

「それはあるにゃんねー。明日から本気出すって言ってるヤツは、基本無理だにゃん」

 あくびをしながら、白姉さんが机に突っ伏す。……すやすやと寝息を立てた。

 備え付けのタオルケットを彼女に掛けて、俺も一服。

 インスタントコーヒー。お湯を注ぐだけの簡単レシピ。

 良い香りがふわりと部屋中に香る。

「あ、ごめん。いる?」

「コーヒー、苦いの無理」

「同じくっす」

「そっか」

 ブラックのまま、苦いコーヒーを味わう。

 うん、喫茶店の方がやっぱりおいしい。

 昔と比べて随分味も進歩したけど、やはり雑味が多いのが気になる。

「……ふぅ」

 窓から、縁で切り取られた空を見上げる。


 ……明日も、この四人にとって、平和な一日でありますように。

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Goodbye today,hallo new girl! 鼈甲飴雨 @Bekkou

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