ハゲの人権が無い世界で、魔法を使うたびに髪が抜ける呪いをかけられたんだが
ただの猫
第1話
この世界において、ハゲというものの社会的地位は最悪だ。人権なんてものは無いに等しい。ハゲと分かれば今まで積み上げてきた信用は地に落ち、衛兵に見つかれば牢屋行き、奴隷も真っ青な労働地獄が待っている。
それは勇者としてこの世界に召喚された俺であっても関係なく適用される絶対のルールだ。
……だからこそ、俺の今おかれた状況は最悪と言えるだろう。
「こんにちは勇者くん! ボクは魔王です! 君には呪いをかけておいたよ!!」
まだ町を出てすぐの草原。ロールプレイングゲームならスライムくらいしか出てこないはずの場所。そんな場違いな場所に出てきた魔王は開口一番、そんなことを言った。
「呪いだと!」
「そうだよ。魔法使用で魔力の代わりに毛髪を消費する呪いさ!!」
「な、なんだってーー!!」
……かくして、俺は魔法を極力使わずに魔王討伐を成し遂げなければいけなくなった。
「勇者様、今です! ここで魔法を……」
「はあぁ、【翔龍剣】!!」
「何故遠くの敵に近距離スキルを?」
「いや、なんとなく」
「勇者様、今……」
「はあぁ、【天空斬】!!」
「何故遠くの敵n」
「いや、なんとなく」
ときには魔法を絶対に使わなければならない場面もあったが、それでも魔法の使用は最小限に抑え、剣技スキルだけでなんとかやりくりしてきた。
若干仲間から疑いの目を向けられている気もするが、なんとかごまかしてきた。
そして、俺は遂に魔王の城へとたどり着いたのだ!!
「ふふふ、ボクの呪いをものともせず、よくここまでたどり着いたね」
「勇者様、呪いとは何のことでしょうか?」
「黙れ魔王! 貴様のせいで一体どれくらいの国民が苦しんでいると思っている!」
「キミ含めてね」
「ここですべてを終わらせる!」
仲間の疑問を遮り、聖剣を構え、魔王へと駆ける。使い込んだ剣技スキルは今までで一番のキレを見せた。
……しかし、やはり魔王は強かった。何よりも、剣を獲物とする俺にとって、魔法を使う魔王は相性が悪かった……。
鋭い剣閃と鮮やかな魔法の舞う激闘の末、仲間たちは傷つき倒れ、俺も遂に膝をついた。
「くっ、なんて強さだ……」
「魔王…まさかここまでとは……」
「いいや、キミたちもなかなかやるねぇ。まぁ、ボクを倒すには至らなかったけど」
魔王は確かに大きなダメージを受けていた。なにせ、剣技スキルの奥義【
「どうすれば……」
すべてを諦めかけたその時だった。
『諦めないで!!』
突然聖剣が光り輝き、そこから声が響く。
『私はこの聖剣に宿る精霊! あなたに魔王を倒すための究極の力を授けるわ!』
「本当か!!」
聖剣から何かが流れ込んでくる感覚。そして俺は新たなスキルを手に入れた。
『さあ、使って! それが究極の攻撃魔法【ホーリーシャイニングジャッジメントバースト】よ!』
「……魔法?」
『そう、、究極の攻撃魔法【ホーリーシャイニングジャッジメントバースト】よ!』
非常にまずい。そんな魔法を使ってしまったら、俺の毛根は一体どうなってしまうんだ。
「勇者様! 早く【ホーリーシャイニングジャッジメントバースト】を!」
「撃たせるか! 【カオスフレイムノヴァ】!!」
仲間の声援と魔王の魔法に挟まれ、俺は遂に……。
「はあぁああああ! 【ホーリーシャイニングジャッジメントバースト】!!」
凄まじい光が聖剣の先から迸る。魔王の魔法を飲み込み、魔王本人へと届いた。
「うわあああ!」
魔法の反動か、薄れゆく意識の中、最後に散りゆく魔王と俺の毛髪が見えた。
……
ここはハゲがぶち込まれる地下労働施設。そこで、年を取ったハゲが、若いハゲに話をしていた。
「それで、この国は救われたって話だ。最終的に勇者の髪の話は一部を除いて完全に闇に葬られたとよ」
「へえ。作り話としてはなかなか面白い話だな。で、おっさん、そのあと勇者は一体どうなったんだ?」
「さあな。大方、地下の労働施設にでもぶち込まれたんじゃねえのか」
「ふーん。まあハゲだからしょうがねえ……っておっさん、なんであんたはそんな話を?」
「さあな」
「おい! 何をしゃべっている! さっさと手を動かせ!」
監督官から檄が飛ぶ。二人のハゲはまた自分の作業に戻っていった。
……ここはハゲがぶち込まれる地下労働施設。今日も元勇者はせっせと働いている。
ハゲの人権が無い世界で、魔法を使うたびに髪が抜ける呪いをかけられたんだが ただの猫 @asasan
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます