第2話 冒険者始めました

「ハァハァ!!」


 錦はひたすら草原を走り抜ける。後ろには五体のゴブリンが明確な殺意を持って棍棒を振り回している。

 逃げ始めてからもう二十分はたっている。それなのに後ろのゴブリンは一向に追いかけるのをやめる気はなく俺の後を永遠と追いかけ回す。

 いい加減こちらが体力の底がつきそうになっているとゴブリンの一体が明らかに他のゴブリンより速度を上げて追いついてこようとしていた。


「ギャハハハハ!!」


 笑い声とともに近づいてくる一体のゴブリンを一瞥しながらこの状況の打開策を考える。

 タイマンならゴブリンに負けることはない。しかしだ、前の一体を倒したところで残りの4体が俺を殺そうと襲いかかってくる。

 ならどうするか、そう考えながら錦は腰に携えてあった短剣を握って鞘から引き抜いた。


 考えていても仕方ない!まず先頭の一体を殺ってからあとのことを考えよう。


 逆手に持った短剣を右手から左手に持ち替え右足で思いっきりブレーキをかけて反対方向に駆け出す。 

 先頭を走っていたゴブリンはその行動に対応するように飛び上がって棍棒を振り上げた。それを振り下ろす瞬間俺は右腕の前膊につけていた金属のプロテクターで受け止める。

 プロテクターと棍棒がぶつかると右腕に強い衝撃と痛みがはしったが歯を食いしばって堪え空中で無防備なゴブリンに対して首元を短剣で横一線に切り伏せる。

 血しぶきとゴブリンの断末魔が聞こえる中次の相手のことを考える。

 残りの4体は一匹は素手、残りの三匹は先程のゴブリンと同じ棍棒を持っている。

 そう考えながら次の行動に移す瞬間、一瞬空中で殺したゴブリンが後ろにいたゴブリン達と重なり視界から消える。

 その瞬間に後ろの2匹のゴブリンが一気に距離を詰めて殺したゴブリンもろとも棍棒を振り回して俺を後方に吹き飛ばした。


「ッチ!」


 腹部に激痛がはしる中後方にゴブリンの死体と共に吹き飛ばされる。二回ほど回転しながら飛ばされて背中にも痛みがあるが右手と両足を地面につけてブレーキをかけて後方に飛ばされる勢いを殺した。

 直ぐに顔を上げて状況を確認する。

 先程の二体のゴブリンは棍棒を振り回した反動で体制を崩してよろけていたがもう二体はすでに目の前まで距離を詰めていた。


「ギヒャ!」


 一体は棍棒をもう一体は鋭く尖った爪で襲いかかってきた。

 爪と避けて素手のゴブリンを蹴る。

 次に棍棒を振り下ろしてくるゴブリンに対しては先ほどと同じようにプロテクターで受け止めて短剣で喉元を突き刺した。

 すぐさま短剣を引き抜き、蹴り飛ばしたゴブリンの方に駆け出す。体制が戻る前に上から振り上げた短剣を心臓へと突き刺すと断末魔と共にゴブリンは息を引き取った。

 あと二体はと思い周りを見渡すと一体はすでに目の前まで迫って棍棒を振り下ろしていた。


「クソ!」


 咄嗟に短剣で受け止めてしまった。

 棍棒とぶつかり合う短剣はピキッと言う音とともにヒビが入った。


「俺の五千がァァァァ!!」


 この短剣は俺が冒険者になる際に初心者セットなるものを購入した際に入手したものであり、耐久力は低く手入れを怠れば2日も持たない代物だ。

 なのに五千リラもしやがる!!

 ボッタクリにも程があると買ったときから思っていたがまさかこのタイミングで壊れるなんて!

 けれど今はその事を後悔している余裕もなく、二体のゴブリンは交互に棍棒を振り回して俺への攻撃を続けている。


「少し避けてください!!」


 困り果てているといきなり若い少女の声がした。

 慌ててバックステップで後方に避けると左の方から何か鋭利なものが俺とゴブリンの間に飛んできた。


【氷よ、ここに刃となりて現界せよ!】


 魔法の詠唱?

 誰だと思い左の方を見るとそこには同じ冒険者の=が立っていた。


【アイスエッジ】


 シャルクがそう言うと彼女の周りに氷の礫が集まりだして刃のような形になった。

 四つの刃が形成されるとシャルクは手を前にかざしてそれを放つ。

 先程の鋭利なものの正体はシャルクの魔法だった。

 四つの刃はそれぞれのゴブリンたちに命中すると胴体や頭に突き刺さる。

 今度は断末魔をあげる時間もなく先程刺さった氷がドンドンとゴブリン達の体を凍らせてゴブリン達は沈黙した。


「だ、大丈夫!?五体のゴブリンに追われてるのを見て慌てて追いかけてきたのよ」


 俺と同じような格好をしたこの少女はつい先日と言うか昨日初めてあった。

 きっかけは単純なもので昨日初めて俺がダンジョンに入った際に今と変わらない状況に追い詰められて彼女に助けられた。

 シャルク=マルテ……レベル7の第五級冒険者だ。

 冒険者とは6段階に分けられていて、一番下から俺や初心者冒険者のつまりレベル1の者たちが第六級冒険者と呼ばれる。

 次にシャルクのようなレベル5以上の物を第五級冒険者と言う。

 他にもレベル10以上の冒険者を第四級冒険者、レベル15以上を第三級冒険者、レベル20以上を第二級冒険者、そして最後にレベル25以上を第一級冒険者と言うらしい。


「ああ……助かった。」


 少し無愛想に呟く錦を見つめながらシャルクは笑顔で頷いた。

 正直俺はシャルクが苦手である。凄く真っ直ぐで、自分の信念を決して曲げない。まるで聖人のような人物なのだが俺にとってそれはすごく煩わしいことであまり関わりたくない人種の一人だと思っている。


「あ、そうだ。倒したんだからの回収はちゃんとしたくんだよ?」


 魔石……それはゴブリン等のダンジョン生物から取り出される魔力石のことを表している。

 ダンジョン生物は基本的に魔力石を核として動いている。魔力石とは言わばダンジョン生物の心臓と同義でありそれが損なわれる、または致命傷を与えて体に限界が来ると魔力石だけが残り体は塵となって消える。

 また魔力石の他にもダンジョン生物はドロップ品として爪や牙、あるいは鱗等を落とすこともある。

 この魔力石やドロップ品をギルド支部に持ち帰り換金してお金にすることで俺たち冒険者は整形を立てている。


「わかってるよ。いちいち言われなくても」


 嫌味をはきながら俺は先程のゴブリン達の死体に近づく。すでに何匹かは魔力石だけとなり塵になっていたがシャルクが倒した二匹に関しては氷の中でまだ形を保っていた。


 めんどくさいな。そう思いながら氷を砕くべく先程まで持っていた短剣の柄頭で数回叩いたが一向に壊れる気配がないと諦めかけているとシャルクが指をパタッと鳴らしす。

 その瞬間氷が溶けて中のゴブリンの死体が塵となり魔力石とドロップ品の爪になった。


「あ、ラッキーじゃない。珍しいわよ?この一階層で出るなんて」


 ドロップ品とは階層ごとにドロップ率が上がり深層に近づくごとにその確率は上がっていく。

 だから一階層で出ることは珍しいのだが………いかんせんそのドロップ品の値段が安いのだ。勿論深層に近づいていくごとに値段は高くなるのだが、この一階層のような上層では確率は低いのに値段も安いから儲けにもならない。


「……今日はこの辺にしとくか」


 ため息とともに手に持っている短剣を眺める。


「あらら、短剣壊れてるじゃない?」


 いつの間にか横に立っているシャルクに一瞬驚きはしたものの今はこの短剣の修理費がいくらになるのか心配すぎて頭が痛い。


「私はもう少し狩っていくからここでお別れだね」


「ああ、助かったよ」


 シャルクとはそれで別れた。

 別れたあとはダンジョンの出口、転送門へと少し小走りで向う。

 転送門……今から約百年前に突如5つの場所に同時に出現した。当時の学者や国の役人たちが総出で研究を進めたらしいのだがその研究の際に転送門内から突然モンスターたちが湧き出してきたのが初めてのモンスターたちとの出会いだったらしい。

 今だに転送門、そしてダンジョンについて研究は続いているらしいが一向にその問題を解ける見通しが立っていないらしい。

 まぁ、俺からしてみればどっちでもいい話だし今は短剣が壊れたおかげで戦闘するわけにもいかずモンスターと出会わないように祈りながら転送門まで帰った。

 転送門につくとそこには人が十人は一気に通れるほどの縦長の大きい鏡のようなものがあった。


 何度見てもこの大きさに圧倒されてしまう。

 そう何度も思えるぐらいに転送門はでかいのだ。

 ただ、この門を通ると地上に戻れるのだが……。


「何でこっちに戻ると門が小さいんだろうな?」


 転送門を通ると向こう側はギルド第5支部の地下転送門広場へとつながっている。

 振り返って転送門を見ると先程のダンジョンで見た転送門とは違い。二人がやっと通れるくらい狭くなっている。

 こっち側とあっち側では転送門の大きさは違うらしい。


「……はぁ、考えてもわからん。さっさと上に行って魔石とドロップ品を換金するか」


 転送門広場を進み上へとつながる階段を登ってギルド第5支部冒険者カウンターまで歩いていく。


「……あのすいません。エルニスさんを呼んでもらえますか?」


 カウンター前まで行き近くにいた受付嬢に話しかける。

 受付嬢は礼儀正しく一度お辞儀をしてから少々お待ちくださいと言って裏に戻っていく。

 二分くらいすると受付嬢と共にシエラが裏から顔を出した。


「ちょっと上で待っててくれる?すぐに行くから」


 シエラはそう言うとまた裏に戻ってしまった。

 仕事でもあるのだろうか?

 ギルド職員は一般的に冒険者管理を生業としているため多くの情報を一括に管理しているためか人数は多いはずなのだが。それでも手が回っていないらしい。

 なのにシエラは俺の専属アドバイザーまで担っている。まぁ、ボーナス査定に反映されるため俺の専属アドバイザーを買ってでたと一昨日のあの事件のときに聞いたのだが。


 俺は言われた通り、階段を上がって酒場に行こうとしたのだがそう言えば魔石とドロップ品の換金をしてないと思いカウンター横にある換金所によることにした。

 

「換金お願いします」


 換金所前まで行き魔石とドロップ品を袋から取り出してそのにいる人に渡した。

 数分後に査定が終わり、袋を渡された。


「……五千リラになります」


 魔石五つとドロップ品一つで五千リラか……。

 リラとはこちらのお金の単位にあたる。もとの世界と一緒で一リラ、一円と考えてもらっていい。

 物価ももとの世界とそう変わらないので一日節約すれば五千リラで足りる。

 けれど、冒険者になると道具の手入れなどがあるため一日五千リラから八千リラ程が必要になる。

 しかも魔石の形や大きさによって値段も変動するため今日のように形のいい魔石じゃなかった場合二千リラや下手をすれば千リラしか手に入らない場合もある。

 ため息混じりにあるき出して酒場に行くため階段を登る。

 酒場につくと周りを見渡して空いている席に座る。すぐに店員の獣人が注文を取りに来る。あまりお金もないためちょっとした飲み物を頼む。


「少々お待ちください!!」


 元気よく注文をとると店員は小走りでカウンター裏にあるキッチンに戻っていった。

 シエラが来るまでの間俺は一昨日のことを思い出すことにした。

 一昨日のあの日にシエラが説明したダンジョンのことを復習するためだ。


 確かシエラは………

 

「……ダンジョンについての説明をしますね」


 一昨日のこの酒場にてシエラはダンジョンについての説明をしてくれた。

 その時の会話を思い出すことにしよう。


「ダンジョンとは突如現れ、5つの転送門と共に見つかった神が想像せし試練の塔と言われています。」


「……塔?」


「ええ、ダンジョンとは縦長に続いている塔のようなものだと学者達は言っています。」


「それじゃあ下に下に続いているってことか?」


「そのように私は聞いています」


「じゃあ階段があるわけか?下に続く」


「いいえ、各階層には転送門が設置されています。そこから下の階層に進んでいけるそうです。」


「……転送門て?」


「転送門とは一瞬にして遠くに移動ができるものです。」


「そう言えばさっきの5つの転送門が現れたって言ったよな?なら、5つのダンジョンが存在するのか?」


「それも違うわ。5つの転送門があるだけで5つのダンジョンがある訳じゃない。つまり、ダンジョンは一つなのよ」


「………なら、最後にダンジョンの中ってどうなってるんだ?」


「ダンジョンの中は……草原だったり焼け野原だったり火山のような形だったりと様々な風景が広がっているようです」


「……不思議だな。その言い方だとダンジョンっていい方おかしくないか?」


「……なぜですか?」


「いや、だってさ?ダンジョンって言えば洞窟みたいに薄暗くて狭い通路があるイメージなんだが。その言い方だとまるで地上みたいに何処までも続いていて端につくことが一切ないみたいな言い方じゃないか?」


「なるほど、確かに言い方が悪かったですね。端がないわけではないんです。ダンジョン内は直径約二十五kmのドーム状の円形に広がっています。」


「じゃあ、次の階層に行くための転送門はどこに?」


「それは、最初の転送門から真反対の場所にあります」


「……なるほど」


 確かこんな感じだった。

 まぁ、まだまだダンジョンについてわからないこともあるけど……それは後々ダンジョンに通ってればわかることだしな。

 会話を思い出している間に先程頼んだ飲み物がテーブルの上においてあった。 


「……甘」


「また、そんなの飲んでるの?」


 砂糖ジュースなるものを飲んでいるとシエラが歩いてこちらに近づいてきた。

 仕事を終えてそのまま来たのだろう。堅苦しい作業用の服のままテーブルについた。


「で?用はなに?」


 テーブルについて店員を呼びながら俺に質問をしてきた。

 今日、シエラを呼んだ理由はダンジョン内で壊した短剣のことについてだ。

 シエラとは専属アドバイザーになる代わりに何でも聞いていいと言っていたのでこの二日間毎回シエラを呼びダンジョンの事やこの世界のことを聞いていた。

 なので今回もシエラに短剣の修理について聞きに来たのだ。


「これなんだけど……」


 ベルトにつけていた鞘ごと短剣をシエラに渡す。

 受け取るとシエラは短剣を鞘から抜き、ヒビが入ったところに指をあてる。

 少し考えるようにこめかみ辺りを手で抑えると呆れたようにため息をついた。


「まさか二日目にして壊すとは」


 短剣を鞘に戻してから俺にそれを返してきた。

 まぁ、ため息をつかれても仕方ないと思っていた。なんたって買ってからまた二日目なわけだし。


「これって直せるのか?後、直す場合いくら?」


 シエラはもう一度考えるように顎に手をあてて目をつぶる。

 少し考えると、口を開いた。


「……正直直すのはもう無理だと思う。そもそもこの短剣は初心者用で耐久力はないのよ。だから初心者はこの短剣をすぐに売って新しいのを買う人が多いの」


「売れたの?」


 シエラは頷く。

 いや、それならそうと言ってくれればいいのに。そうすれば俺だってこの短剣を売ってもうちょいマシなのを買ってたよ。


「と、言っても千リラ程だけどね」


「……じゃあどうやって新しいのを買うんだよ?」


「例えば……そうね。騎士団に入ってそこから経費を出してもらうとか?後は……」


「ちょ、ちょっと待って騎士団て何?」


 そう言えば説明してないわね、と言ってシエラは騎士団のことを説明し始めた。

 シエラによれば騎士団とはギルド統括の自警団組織の俗称らしい。

 自警団と言っても冒険者の集まりでダンジョン攻略を目的とした組織らしいが、ギルド統括と言うことで街の治安やギルドのイメージアップのためイベントを開いたりしているらしい。


「……どうやってその騎士団に入るの?」


「時たまに入団テストをやってることがあるらしいわよ?まぁ、いくつかある騎士団が最近やっていたようだから当分は無いだろうけど」


 そうなんだ……。と言うことは結局俺は自力で新しい装備を買わなければいけないわけか。

 ………ん?そういえば。


「さっき騎士団がいくつかあるって言わなかったか?」


「ええ、あるわよ?この第5支部には5つ存在するわね」


 5つ……それなのに全部一気に入団テストをやったのか?


「何で一気に入団テストをやったんだ?」


「……ある新人冒険者を争って行われたらしいわよ?確か名前は……ヒビキ=カシマだったかしらね?」


 ヒビキ=カシマ?………あ、それってまさか。

 転生のときに俺と一緒にいたイケメン高身長の鹿島響か!あの贔屓女神フレイアに能力とか色々もらっていた野郎か。


「そのヒビキ=カシマっていう男なんだけどね。能力値がやけに高くて大騒ぎになったのよ!?まぁ、だから全ての騎士団がこぞってヒビキ=カシマを入団させようとテストを開いたんだけど」


「で?結局何処に入団したんだ?」


 そう言うとシエラは持っていた鞄から数枚にまとまっている紙を取り出して渡してきた。

 渡された紙の表紙をみるとそこには〘双翼騎士団〙と書かれていた。

 ペラペラと何枚か捲っていくと五枚目くらいに書かれていた名簿表にヒビキ=カシマと書かれているのを見つけた。


「双翼騎士団……元第5支部最強の騎士団よ。アストライア率いる双翼騎士団は最高到達階層が三十階層……全てのギルド支部や本部の騎士団の中で三番手くらいの強さを持ってるわ」


「……その一角にカシマは入ったと」


 そうだとシエラは頷いた。

 クソ、自分の力で入ったわけじゃないくせに何て言ったって誰も信じちゃくれないだろうな。

 まぁ俺が考えて仕方ない。まずは短剣をどうするかだな。


「まぁ、その話はここでやめて今はこっちの短剣の事を考えてくれ」


「……ねぇ、明日暇かしら?ちょっと出かけない」


 何を言ってるんだとシエラに言ったが聞く耳持たず話は明日と言って場所と時間を言われて丁度運ばれてきた料理を食べ始めた。

 何じゃそりゃ?

 そう思ったが何を聞いても答えてくれず、諦めて俺は立ち上がり酒場を出ようとした。


「ん、ニシキは食べていかないの?」


「金欠だよ」


 財布の中は五千リラだけの俺にここの食事はダメージがデカすぎる。何ならゴブリンの攻撃より痛いまである。

 と言うことで砂糖ジュースの会計だけ済ませて酒場を後にした。

 一人取り残されるシエラは錦を一瞥して一言聞こえない程度につぶやいた。


「……砂糖ジュースなんて頼まなきゃいいのに。五百リラもするんだから」


        ◆●◆●◆●◆●


 酒場から出て階段を降りギルド出口から外に出る。

 外に出ると夕陽は沈み、ギルドの出口から幾人もの冒険者が帰路につくためメインストリート進んでいく。俺もそれに続きメインストリートを進んでいく。

 メインストリートは賑わっており道のサイドには祭の露店のようにいくつも並んでいる。それに釣られるように帰路についていたはずの冒険者達は酒場に吸い込まれていく。

 その中俺は客引きや食べ物のいい匂いを避けつつメインストリートを歩いていく。

 二十分くらい進んだ頃メインストリートをぬけて舗装されていない道に入っていく。

 何件か並んでいる建物の前を通り少し古びた宿屋に入る。


「お!おかえり」


 髭面の男が片手を上げて挨拶をしてきた。

 この髭面の男の名前はゲルマ=マクルといい、この宿屋の店主である。

 一昨日のあの日にシエラに泊まる場所が無いというとここを紹介されてその日以来この宿屋の一室を借りている。

 因みに一ヶ月2万リラと破格の値段である。他の宿屋だと一ヶ月借りるのに五万リラはかかるそうだ。


「コレ今日の分です」


 財布から二千リラを取り出してゲルマに渡す。俺の稼ぎだと一ヶ月分を一気に渡さないため一日に稼いだ額から少しずつ返していくということにしてある。

 毎度ありと人当たりのいい笑顔で受け取ると鍵を渡された。


「ありがとうございます」


 受け取った鍵を持ち、近くにある階段を登って2つ目の部屋のドアを開けて入る。

 部屋の構造は至ってシンプル、入ってすぐに見えるのはベッドとテーブルに二つだけ椅子がおいてあり、入り口を少し進むと保存庫ともう一つ部屋がありそこにはトイレがついている。

 シャワーに関してはギルド内にあるためあまり必要としない。


「……疲れたな」


 身につけているプロテクターや防具を外して一箇所にまとめる。腰につけたいベルトを外してそこについている短剣を外す。

 鞘から一度抜いてヒビを確かめたから入れ直してテーブルの上に置く。

 保存庫を開けて中から適当に食べられるものをとって口に含む。


 ここに来てまだ六日目だが、正直生きるので精一杯で異世界転生をしたことに驚いている暇もない。

 ……ああ、もとの世界に帰りたい。

 そう思いながら食べ終えた物の後片付けをしてベッドに寝そべる。

 目をつぶり寝返りをうつ。


 天井を見上げながら俺は今までを振り返る。

 クソ女神にチートイケメン高身長、引掛けエルフにお人好し冒険者……始まって殆どたってない異世界転生の日々。

 ああ、これからどうなるのか。


 憂鬱になりながらも俺は冒険者を始めた。

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異世界転生 〜冒険者ではじめるダンジョンライフ〜 フクロウ @DSJk213

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