異世界転生 〜冒険者ではじめるダンジョンライフ〜
フクロウ
第1話 異世界転生
「ヌォォォォ!!」
広大な草原を大声とともに駆け抜ける一人の少年がそこにいた。
この少年、名前を
現在、緑色の肌に耳は尖っていて棍棒のようなものを手に持っているゴブリンと言われる魔物に追われている。
「な、何で五体もいるんだよ!?」
ダンジョンと言われる魔物たちが住まう洞窟に錦は日々通っている。
と、言うより強制的に放り込まれていると言っても過言ではない。なんたって、錦が異世界に転生させられた時に一切の所持品、金、能力を貰えなかった。
そう、貰えなかったのだ。
錦は本当は異世界転生させられるはずではなかったのだから。
「……私は美の女神、フレイア。あなた方には、これから異世界に転生してもらい。その世界で生きてもらいます。」
真っ白の空間に豪華な椅子が一つ置いてあり、それに座る自称女神を名乗る美女が座っていた。
……そして俺ともう一人、高身長のイケメンが横に立っていた。
「
自称女神フレイア様が優しく話しかけてくる。
……俺の横の男に。
いや、マジで横の男を限定して話しかけている。
あれ、俺は?
そう思っていたが、フレイアと鹿島は二人でトントン拍子に話を進めていく。
異世界だ、能力だ、貴方は選ばれただ。何だかんだと、よくわからない話を二人で話している横で俺は待ちぼうけをくらっていた。
「……と、言うことで鹿島あちらの世界でも頑張ってくださいね。」
話に一段落でもついたのだろうか、フレイアが最後に鹿島と言う男と握手をすると左手をかざした。その瞬間に鹿島は光に包まれ、またたく間に消えてしまった。
驚きと疑問がつきないが、俺は落ち着きを保ちフレイアの方に近づく。
「……いい加減、俺にも説明をしてくれるんだよな?」
「……はぁ」
質問をするとフレイアはため息混じりに椅子に勢いよく腰掛けた。
「なんで私がアンタなんかに説明しなきゃいけないのよ。」
始めて言葉を交わすというのに、まさかの暴言である。
先ほどと打って変わってフレイアは心底嫌そうな顔で話をすすめる。
「じゃあ、あんたには異世界に行って生きてもらいまぁ〜す。それじゃあ頑張って〜」
「は、どういうことだよ!?」
俺が質問をする前にフレイアは手をかざす。そうすると光が体を包み、俺はこの世界に飛ばされていた。
「あ、最後に教えといてあげるわ?貴方は私に間違って殺されたのよ、ゴメンナサイね。だから、代わりに異世界に転生させてあげるから恨まないでちょうだいね。」
そこまで聞くと俺は意識を失った。
まぁ、その後は金もなく、取り柄もない俺はどうすることもできず。来たばかりの世界で、右も左もわからない状況になった。
「……はぁ、異世界だの、転生だのって意味がわからんこと言われたあげくに一切の説明もなくて放り出されるなんて……ふざけんなァァァァァ!!!」
町中で俺は一人大声を上げた。それはもう、横を通る人が皆揃ってこちらを見てくるほどにだ。
もうヤダ、死のうかな……そう思っているときにいきなり肩を掴まれた。
振り返ると女性が立っていた。顔立ちは整っていて服装はもとの世界でのOLのような格好だった。
「何のようですか?」
ジッとこちらを見つめてくる女性に耐えきれず此方から質問をした。
女性は、少し考えると俺の手を引き何処かへと連れて行く。
驚き、手を振り解こうとしたのだが転生させられてからまる三日経っており腹が減って力が出なかった。辛うじて歩けばするものの、女性の歩くスピードについて行けず息が上がっていた。
「はぁはぁ、ど、どこに連れて行くんですか?」
抵抗することを諦めて、女性に大人しくついていく。その代わりに質問を投げかけてみた。
女性は一瞥こちらに向けたが直ぐに振り返りドンドン進んでいく。最終的に俺はいくつかの質問をしたのだが一切の質問を無視された。
女性が足を止めたのはあれから十分くらいたった頃だった。
外壁は白く塗装されていて、見上げるほどの高さと幅の広いの建物に女性は俺を連れて入った。
建物中を入ってすぐに広場、奥にカウンターのような場所、横には階段とその横にテーブルなどが置いてあり何人かが話し合いをしている。
「上の階に行きますよ」
透き通った綺麗な声を放つ女性にまた手を引かれて階段を登っていく。
上の階につくとそこは……酒場のような場所だった。
ある男は大声を上げて自慢げに周りに話しかける。ある女は各テーブルにおぼんにビールジョッキを4つのっけて運んでいた。
そして何より、気になったのは明らかに人間ではありえない耳や尻尾が生えた者たちがいることだった。
「何で、尻尾や耳が生えてるんだ?」
「……もしかして獣人を見るのは初めてですか?」
先ほどまで、一切の質問に答えなかった女性が初めて俺の疑問に反応を示した。
「そもそも存在自体知らなかったです」
転生させられてから3日間、できるだけのことは調べたが自力ではやはり限度があった。
それにホームシックというのだろうか、疲れとストレスであまり周りが見えていなかったのだろう。だから、町中で獣人とすれ違っていても気づかなかったのだろう。
「……どんなド田舎から来たんですか、貴方は?」
異世界からです。
とは言えないので笑って誤魔化した。疑うような目で女性に、見られたが目をそらして回避した。
「はぁ、獣人を知らないということはエルフやドワーフ、アマゾネスも知らないですね?」
何故疑問系なのに決めつけた言い方をするのだろうと疑問に思ったが今はそんなことはどうでもいいことだと割り切って女性の言ったエルフやドワーフ、アマゾネス何かのことを聞き返してみた。
「エルフ?や、ドワーフなんかは何が人間と違うんですか?」
「一般的に身体能力に差が出たり……ほら私の耳を見てください。」
肩まで掛かっていた髪を少しかき分けて女性は耳を見せてきた。
「……尖ってる」
「エルフ族のわかりやすい特徴としては耳が私のように尖っています。」
なるほど、何となくだけど分かってきたことがある。
まず、この異世界では他種族が存在する。それと元の世界の常識であるエルフの耳は尖っていると言うこと。つまり、ある程度ならあっちに合ったRPGのゲームに出てくるキャラクター何かの知識が役に立つということ。
フムフムと頷いていると女性が更に話を続ける。
「すいません、自己紹介が遅れました。私はこの建物のギルド第五支部所属冒険者アドバイザー、シエラ=エルニスと申します」
「ギルド?」
また、よくわからない単語が出てきたぞ?ゲームなんかでよくギルドという言葉は出てくるがこっちの世界でも同じようなものなのか?
「ギルドとは冒険者を統括し仕事の斡旋、ダンジョン攻略の指導、ダンジョンで拾える魔石やドロップ品などの換金などを私達ギルド職員が管理しております」
先ほどとは違い、業務的に話をすすめる女性のペースについていけず頭を抱えてしまう。
冒険者?
ダンジョン攻略?
ダンジョンで拾える魔石やドロップ品?
それに換金?
あ、駄目だ。話について行けないどころか頭がこんがらがって何か倒れそう。
そもそも、酒場というとこだけあって運ばれている料理や男や女が食べている料理なんかの匂いにあてられて腹が余計に減ってきた。
そう思った瞬間腹がなり女性は驚いたような表情をした。
「……すいません。もう3日も何も食べてなくて」
そう言うとシエラは近くいにいた店員を捕まえて何かを話し始めた。一分くらい立った頃店員とシエラは話がついたようで店員に案内されて席についた。
「ここは私が奢るわ」
そう言って店員に何か丸いチップのようなものを渡していた。店員はそれを受け取ると、毎度ありと言って少し小走りでカウンター裏に戻っていった。
「あの何で俺なんかにこんなに良くしてくれるんですか?」
そう、最初っから疑問に思っていたのだ。手を引いてここまで連れてきたのもそうだが俺に色々なことを教えてくれることや何か食べ物を奢ってくれることなどシエラにとっての特がないように思える。
だから、疑ってしまう。
女神のときもそうだが、裏がある女は怖い。こういうタイプの女性は何かしら裏がある気がする。と言うか、美人は総じて裏がある。
「………」
質問に返答が返ってこない。シエラは無言のままこちらを見つめてくる。
そうしている内に先ほどの店員が戻ってきて肉や野菜、スープなどの料理をテーブルの上に乗せた。
いい匂いが、鼻から腹へ通り抜けていく。胃が収縮して痛いほどに腹が減っているのがわかる。
運ばれて来た料理に夢中になっているとシエラがどうぞと言ってこちらに、ナイフとホークを渡してきた。
「……ありがとうございます。」
一言お礼をいってからナイフとホークを受け取る。
「いただきます」
肉料理にホークをさしてナイフで少し切って口に運ぶ。口に近づくごとに鼻に来る匂いが強くなっていく。
口に入れると久しぶりに味わったまともな料理に涙が出てきそうになるほど感極まった。
うまい、そう思ってもう一口いこうとしたらシエラが手を伸ばして止めに入ってきた。
「ちょっと待ってください」
「な、なんですか?」
料理から目を離してシエラの方を見るとニコッと口元がニヤけていた。
その瞬間察してしまった。俺は彼女にはめられたことを。
「貴方今食べましたよね?この料理」
「……はい」
「私確か、ナイフとホークをどうぞと渡しただけですよね?何で料理を食べてるんですか」
シエラはニコニコしながら話を続ける。
「いや、でも!シエラさんは奢ると言いましたよね?」
「ええ、言いましたよ。その野菜をですけどね?」
運ばれてきた料理の中にある野菜の盛り合わせの方に指を指した。
確かに何を奢ると入ってないがそれにしたってあまりにも卑怯ではないだろうか?
と言うか最低だ。あの女神レベルで、何ならこのシエラと言う女性は実はあの女神フレイアなんじゃないだろうか。
そう言われても信じるまである。
「食べてしまったものは仕方ないですね。私の条件をのんでくれるのならこの料理全て奢りましょう。ですが、もし断るのなら今食べた料理の代金貴方に払っていただきますよ?」
もう、俺にシエラを止めるすべはない。お金も何もないため条件をのむ他ないのだ。
「その条件とは?」
「……簡単です。貴方に冒険者になってもらい、私を貴方の専属アドバイザーとして雇ってください。それが条件です」
そう言うとシエラはニコニコと悪い笑みを浮かべて手を伸ばしてきた。
俺にその手を払いのけることはできず握り返して握手するほかなかった。
さて、これが俺の最低災厄の異世界生活の始まりだ。
女神に騙され、人に騙され、そして危険に手招きされてる。
何と馬鹿げた異世界生活なのだろうか。
けれど、まだ俺は知らない。これから起こる様々な出来事を人々とのつながりを。
だから、俺はこれから始めるのだ。
今日から始める……異世界転生を
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