37 エピローグ


「ハイ、準備オッケーです!」


 専属整備士のチャルチルが親指を立てて、後ろの鞍にすとんと乗り込んでくる。


「緊張……してますか」

「うん……ワクワクしてる」


 腰まで伸びた美しい赤髪が朝日に透ける。さらさらと風に遊ばれる毛先が、相棒竜の白いボディに良く映えていた。


「なんだかカームさんみたいですね」

「そういえば、そんなヤツもいたわね。どんな顔だったか忘れちゃったわ」

「もう、嘘つきー。……大好きなくせにー」

「は、はぁ!? な、何よそれ! あ、あたしは……別にそういうわけじゃ……!」


「え? なんですか? お友達として、って意味ですけど。焦るようなことですかね」

「……くっ、あ、あたしとアイツは別に友達じゃないわ」

「じゃあ……なんなんですか?」

「…………せ、戦友よ」

「戦友て」


 チャルチルが悪戯な笑みを浮かべながら、ルナリザの乱れた後ろ髪を整える。


「じゃあ、わたしとは?」

「アンタとは友達よ」

「ふふ、ルナリザって仲良くなればなるほど可愛くて面白い人ですよねー」

「アンタは……親しくなっていくほどに意地の悪さが目立つわね」

「まあいいじゃないですか。わたしもカームさんのこと大好きですし、おあいこですね」

「……もういいから、行くわよ。他の隊から遅れてる」

『はーい。では、七班四騎、“ルナチル組”飛びまーす』

「ちょっと! ヘンな名前付けないでよ! しかも無線で流すな!」


 青と自由が一面に広がる大空へ、羽ばたく。

 あれから――二年が経った。

 母竜機構は解体され、ミッシェラルド発足の新たな組織、『竜ノ天空冒険隊』が結成された。

 その目的は、“世界地図に記載の無い人類未踏の大陸の発見”と、“未だ発見されていない新たな資源の獲得”そして、“人知を超えた新生物との邂逅”である。

 世界は広い。かつて出会った幼竜が不思議な力を持っていたことも、人竜戦争で舵を取っていたあの竜のことも、生活基盤だった巨大すぎる生物についても、我々は何も知らないのだ。

 大昔の冒険家が残したとされる世界地図は数百年前から形を変えていない。

 世界の誰からも見つからない地には、一体何があるだろう。それを、確かめてみたい。


 世界には様々な都市伝説がある。

 人の悪意に反応して寿命を貪る空飛ぶクラゲや、大事な想い出を食べてしまう昆虫。永遠に雲を食し続ける謎の怪鳥から、大陸に擬態化している竜の存在……。

 そのすべてが空想上の生き物だと笑われてきた。

 でも、この広すぎる世界の何処かには、本当に居るのかもしれない。

 あの不思議な幼竜がそうだったように……。


 だから、あたしは自分の目で見て感じたい。色々なものに、出逢いたい。

 大切な仲間と笑って。悩んで。泣いて。ぶつかって、苦難を乗り越えていく。


 そのほうが――、きっと楽しいと思うから。

 ルナリザは自分を変えてくれた彼方の青年に想いを馳せる。



 ――アンタも、そう思うでしょ?



「会えると……いいですね」

「…………そうね」

「……因みに、何にですか?」

「……は? え? …………カーム、じゃないの?」

「ふふふ……うふふふふ……」

「アンタ、本当に叩き落とすわよ……」

「ああ、ごめんなさいですぅ!」



 ――あと、みんなでサーカスできるの、楽しみにしてるんだからね。

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天空を制するは、天翔る竜騎士サーカス団 織星伊吹 @oriboshiibuki

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