第7話可愛さの前では全て無力

僕は彼女の顔をじっと見つめた。

それはもちろん、猫撫さんの顔の造形が優れているということもあるが、それが主たる理由ではない。

自分の意見を、どう彼女に伝えればいいか考えるためだ。

彼女の過激な意見に、どう応えるべきか考えるためだ。


猫撫さんの噂は聞いていたが、まさかここまでのものとは思わなかった。

身も蓋もない理論。

詭弁と言われても仕方がない表現。

相手の途中発言を認めない、怒涛のような言葉の連撃。

これは軟派な覚悟で挑めば、人格を歪めれてしまうのも無理はない。

これまでの自分を殺されてしまうのも、無理はない。


だけれどーー

僕は再度彼女を見つめる。

さっきとは異なり、ただ僕の言葉を意見を待っている猫撫さん。

黙っていれば可愛い、と呼ばれる女子はいるが黙っていると余計に可愛いと思えるのは彼女だけだろう。


彼女を見ていると、

彼女に見つめられていると、

普通であろうと思っていたさっきまでの自分がバカらしく思える。い


別に普通じゃなくてもいいじゃないか。

人はこの世に生を受けた時点で、地球を含めたくさんのものに迷惑をかけて生きている。

呼吸をすれば地球温暖化、

食事をすれば大量殺戮、

眠りにつけばーーこれは特にないな。


とにかく、人は迷惑だらけの生き物なのだ。

人に生まれた時点で、否、生き物に生まれた時点で、誰かに迷惑をかけるしかないのだ。

それは僕の家族も同じ。


お前のような息子がいて恥ずかしい!

人様に迷惑をかけるとは何事だ!

どうしてもっと普通に生きられないのか!


これまでかけられた、様々な言葉が脳裏に浮かぶ。

そして、消えていく。

掻き消されていく。

猫撫さんの、瞳の前に。


昔、どこかで聞いた言葉。

可愛いは正義。

可愛いの前にはどんな言葉も霧散する。


「猫撫さん」


「どう?考えはまとまった?」


何かを期待する彼女に、僕は彼女が期待していないだろう言葉を言う。


「×××、××!」


だって仕方がない。

僕は自他共に認める、普通じゃあない男なのだから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

考察魔 猫撫さんとのあれこれ 虹色 @nococox

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ