第6話A.ググれ

「まず、普通という言葉の意味について、言及するのはやめましょう。それはグーグル先生に聞けば分かることだから」


「だからこそ、ここでは私の解釈を伝えるね。私の意見であり、私の認識。もちろん、それを狗飼くん、あなたに押し付けるつもりはないし、共感してもらうつもりもない」


「それでね、狗飼くん。普通とは、私にとってはつまらないものことを指す言葉だよ」


「普通、類似の言葉としては一般的とか、常識的とか、そんな感じ。全体に影響を及ぼさない、つまらない存在」


「いても困らないし、誰にも迷惑をかけない。でも逆に、いなくても困らない。そんなどうでもいい存在」


「だから、私には分からない。あなたが普通を知りたい理由も、普通を求める理由も、普通になりたい理由も」


「皆目見当がつかない」


「周りに迷惑をかけたくない、周りに影響を与えたくない。そんな風に考えるなら、簡単な方法があるよ」


「こうやって、あなたの首に私の両手を添える。そして、私が全力で力を入れる。そうすると、次第にあなたの命は消える。その結果、これ以後誰にも迷惑をかけることのない存在になれる。まあ、私は殺人犯になってしまうので、実際にはしないけどね」


「だから、別の誰かにお願いすればいい。ほら、あなたが普通であることを望んでいる人たちに。普通であれと強いている人たちに」


「できない?それはどうしてかな?私に質問してきた人たちが、どんな末路を辿ったかは知っているよね?」


「たしかに、私は自分の手は汚していない。罪に問われるようなことはしていない。私は私の意見を言って、彼らはそれを参考に行動しただけ」


「人の性格や人生を歪めてしまうことを殺人と定義するのなら、それは私は殺人犯なのだろうけれど。それを言ったら、スポーツ選手や芸能人、ユーチューバはどれだけの数を歪めているんだろうね?」


「あ、それを言うなら教師も同じだね。自分の価値観や、上司の価値観を半ば生徒に押し付けているのだから、逆らうことも許していないのだから。平均的に、ある程度社会に役に立つ人間を生み出すのが彼らの仕事だからね」


「仕事だから罪に問われない。なら、殺し屋さんとかも罪に問われないのかもしれないね。食肉業者の人や軍人も問われていないから、それも当然なのかもしれない。理由のない殺傷は罪だけれど、理由のある殺傷は仕事と定義しうるからね」


「ごめんね、話がそれちゃった。つまりは普通を強いることは、その人の人格を歪めるという意味では殺人と大差なくて、自分の意思で普通になりたいなら、死んじゃった方がいいよって話」


「とっても極端な話になったけど、私の意見はこんなところ。さあ、君の意見を聞こうか」


猫撫さんは、そこで僕の言葉を待った。

濁流のような言葉を止め、ただただ可愛い顔で僕の意見を待った。

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