ルストの残したアドバイス

「これは私のおせっかいだけど」


 そう前置きして話し始める。


「まずはやっぱり皆さん全員、もっと基礎体力を身につけないと駄目ですね。特に精術武具を常用するなら、その人の精神力や生命力や体力といったものが精術武具の使用回数に繋がってきます。基本的な鍛錬は毎日欠かさず行なってくださいね」


 後は個別のアドバイスだ。


「フレーヌさん」

「はい」


 まずは弓使いのフレーヌから。


「あなたの弓能力はとても素晴らしいわ。でも戦場で色々な局面に対応することを考えるなら、弓以外の近接戦闘手段を考えておかないとね」

「やっぱり、そうですよね」


 私の言葉にフレーヌは頷いていた。


「ええ、弓持ちの方は両腕の力がすごいんです。それを活かして片手用の剣などを使えるようにすればいいんです」

「はい、ぜひそうします」


 次いで槍持ちのリマオン、


「リマオンさん」

「はい」

「リマオンさんの場合は精術を実行時の理論構築をもっと精度を高めないといけませんね」

「やはりそうですか?」


 これは彼女も気付いていたようだ。


「ええ、火炎玉の自動追尾というのはとても面白いけど。火炎弾をもっと小さく密度を上げて精製して、効率よく連射できるようにする必要があると思います。現状では発射まで時間がかかり過ぎると思います」

「はい、肝に銘じます」


 彼女は言う。


「ルストさんの精術を見ていると、精度も速度も精密性、詳細性、いずれもすごいと思っていました。まだまだ修行だと思ってこれからも頑張ります」


 そして次はキーファーだ。


「そして、キーファーさん」

「はい」


 私は彼女の目を見て言った。


「私が何を言おうとしているかお分かりですよね?」


 私は目一杯笑顔で告げた。当然ながら彼女は既に分かっていた。


「はい、体力がなさすぎますよね。発動2回で気絶してしまったら容量不足もいいところです」


 彼女は自ら苦笑していた。そこに私は告げた。


「そうね。ましてや使っているのが〝環境効果型〟なのだから、複数の存在を対象とする事は必然です。もっと基礎体力をつけて体を鍛えてください」

「はい! 次こそは気絶しないように頑張ります」


 そして最後にまとめるようにエアルが言う。


「また一からやり直します。ルストさんもお互い〝二つ名〟目指して頑張りましょう」

「ええ!」


 私たちは握手を交わした。またいつか会えるだろうと信じながら。

 私は彼女たちと別れたのだった。


 それからあの3人の男性たちの姿も探したが彼らはすでに旅立った後だった。事情を知っていた正規軍の人曰く、次の仕事がすでに決まっていたのだという。

 これ以上残留しても益無しとして見切りをつけたのだろう。


「行っちゃったんですか? あの人たち?」


 私は彼らがなぜ実力不足なのかわかるような気がした。私の気持ちを汲むように正規軍の人が言う。


「ええ。日の出る前に村の人たちにも何も言わないでご出発なされたそうです。それにそもそも、あの方たちには報酬の立替払いの話はお伝えしていないんですよ」

「え? そうなんですか?」

「はい。お話をする前に日の昇る前から出発してしまわれたのでお伝えする暇がなかったんです」


 ああ、これはあれだ。慌てるなんとやらは貰いが少ないと言うやつだ。


「しかたないなぁ」


 私は苦笑していた。馴れ合いしろとは言わないが、もう少しお付き合いぐらいはしていいだろうに。

 事実、美味しい思いはこの後に待っていた。出発の支度をしていた私の所に村の若い人たちが集まってきた。


「これ、少ないですけど」

「よろしいんですか?」

「はい。村のために戦っていただいた皆様へのお礼です」


 村の若い人たちを中心に私たちにカンパをしてくれたのだ。村にまつわる問題を解決してもらったというのに、元々の契約の報酬が少額なのはあまりにも失礼すぎるのでは? と言うことになったのだそうだ。

 金貨や銀貨が雑多に詰まった袋を五つ渡される。私とあの四人娘の分だった。


「ありがとうございます!」


 感謝を述べて、彼女達の所に持って行って中身を確認する。報酬のことで少なからず気落ちしていた彼女たちも、表情に明るさが戻っていた。


「こんなに!」

「助かります。帰り道の路銀、どうしようかって話し合ってたところだったんです」


 あの恐ろしい戦いを戦い抜いた私たちへの思わぬ報酬だった。

 もっともこれには男性陣がさっさと姿を消してしまったために8等分が5等分になって一人頭の分け前が増えたということも影響しているが。

 そして旅支度を終えると8時過ぎには村を出発した。

 村の出口にあたる道切りの道祖神の石像のあたりまで村長や村の若い人たちが見送りに来てくれた。


「これ帰り道で食べてください」


 渡されたのは焼きたてのパンと村自家製のチーズ。香ばしい匂いが心地よい。


「ありがとうございます! それでは失礼します」


 そう答えて私は村から旅立った。次の仕事を目指して。

 のんびりしている暇はないのだから。

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