ねぎらいの宴と、女性傭兵同士の会話
村長が出て行ったあとで入れ替わりに現れたのが村の女性たちだ。木綿生地のワンピースにショールとエプロン姿という出で立ちで彼女たちは言った。
「お夜食を作りました。よろしかったらどうぞ」
今回のことで結果として村のために戦った私たちをねぎらう為に夕食を用意してくれたのだという。まだ体力の回復していないキーファーや、銃弾の傷を負って治療中のフレーヌには介助の人がつけられていた。申し出を断る理由はない。
「ありがたく頂戴いたします」
それは皆も同じだった。
村の集会所に場所を移して宴が始まる。肉料理を中心にボリュームのあるメニューが並べられていた。
酒も振る舞われて場は盛り上がりを見せた。
歌が始まり、踊り出す者もいる。宴とは喜びを共有する場なのだから。
私はそれを微笑ましくも静かに見守っていた。
みんなの前では言わなかったが、仕事の依頼人である山林所有者が捕まえられた以上、仕事の報酬も簡単には支払われない可能性がある。
全く支払われないということはないだろうが裁判が絡む以上、そちらが決着がつかないと支払いの許可も降りない可能性があるのだ。私以外の人はこのことに気づいていないのかもしれない。
でも今はそのことはどうでもいい。
「これで安心して山の仕事に出ることができます」
「本当にありがとうございました」
山賊が討伐されたことで山の治安も良くなっていくだろう。横暴な土地権利者も排除される。将来の展望が見えてきた村の人々が、明るい顔で感謝してくれていたのがせめてもの救いだった。
先のことを思い煩うのはやめよう。私はそう思ったのだ。
宴が終わった後、寝所として割り振られた部屋に向かうと衣類を脱いで眠りにつく。食事と美味しいお酒で腹を満たした後だから心地よい眠りにつくことができた。
そして翌朝、朝食を食べてからみんなの所に会いに行った。
今回の仕事で即席で集まった仮の仲間だとはいえ、命の危険を共有しあった仲であるということには変わりない。
私はまずは四人の女性たちのところへと顔を出した。
「皆さん」
部屋の扉を開けて声をかける。元々知り合い同士だったという事もあり、大部屋で四人でまとめて寝起きしている彼女たち。
私のことを快く迎えてくれた。
「あら、ルストさん」
「どうしたんですか?」
エアルとリマオンが言う。私は彼女たちに答えた。
「今日、この村を発つのでご挨拶しておこうと思って」
リマオンが言う。
「あ、所属する場所に帰られるんですね?」
「ええ、早く戻って次の仕事を探さないと」
体力がかなり回復していたキーファーが寝床で体を起こしながら言う。
「今回の仕事、思ったように実入りが見込めませんからね」
キーファーの傍らでフレーヌがため息まじりに呟いていた。
「そうなのよね。軍警察とか色々絡んでるから、いつも通りにすぐに手渡しってわけにはいかないかもしれないし」
私はそんな彼女たちに、ある情報を提供した。私はそのためにもここに来たのだ。
「これは今朝先程、正規軍の人からの話で小耳に挟んだんですが、正規軍の方から立て替えで払ってくれることになったそうです」
この話にエアルが色めきたった。
「本当ですか?」
「ええ。規定通りだと私たちを無報酬で帰らせてしまうことになる。それではあまりにもひどすぎるのではないか? ということになったそうです」
「よかったー」
彼女たちも報酬支払の件は気がかりだったのだ。
私は彼女たちに尋ねた。
「私は自分の活動拠点の街に帰って次の仕事を探しますが、皆さんはどうなさいますか?」
私には彼女たちに対してある懸念があった。傭兵として見た時に彼女たちの能力は決して高いとは言えない。むしろ問題点の方がまだまだ目立つと言っていいだろう。
やる気はあっても実力が伴っていないのだ。だからこそ山賊に追跡されても振り切れなかったのだから。
私からの質問の声に答えてくれたのは、まずは弓を得意とするフレーヌだった。
「それなんだけど、昨夜一晩四人でずっと話し合ったんだ」
リマオンが言う。
「今の私たちではまだまだ足りないものがあるって」
キーファーが言う。
「臨時の隊長役をやってくれたルストさんの背中を見てて心からそう思ったんです」
そして、エアルが言った。
「だからイチから鍛え直そうって」
「そうなんだ」
「はい!」
そう答えてくれた彼女たちの表情はとても晴れやかだった。フレーヌが言う。
「私が負傷したことも、キーファーが力を使い切って気絶してしまったことも、いろんな面でまだまだ足りないことばかりだから」
リマオンが言う。
「でも、ルストさんの指揮の下で、一定の実績を示せたのはもう一つの事実ですから。この仕事を諦める必要はまだないなってみんなと話してたんです」
私は頷きながら言った。
「ええ、私もそう思うわ。むしろこれからだと思うの」
「はい!」
元気の良い声が返ってくる。最後にアドバイスとして言葉を残していくことにした。
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