仲間たち語らい合うⅢ ―パックとドルスとセルテス―

 そうかと思えば、ユーダイムお爺様を中心として、カークさんやパックさんやゴアズさん、バロンさん。戦闘に対して一家言ありそうな人たちが集まって話題に花を咲かせていた。

 話題の中心はまずはパックさんに注がれていた。


「戦象を6頭も!?」


 驚きの声はユーダイムお爺様だ。


「しかも素手で? 信じられん」


 パックさんが西方の辺境で打ち立てた〝戦象6頭崩し〟の武功について話題になっていた。

 カークさんが言葉を口にする。


「実際に目の当たりにした我々も驚く以外にありませんでした。あの屈強な巨体の生き物が素手の拳打で見るも無残に崩れ落ちる。あれはまさに圧巻というより他はありません」


 バロンさんが言う。


「それはおそらく敵国の方でも驚き以外の何者でもなかったかもしれませんね」


 ゴアズさんは語る。


「そうだな。しかも彼が6頭の戦象を倒したことによって敵の進軍の勢いは止まり、我々はこちらから反撃をする準備を整えることが可能になったのです」


 バロンさんは言葉を添える。


「戦局を変えた最大の功労者です。まさに絶掌のパックと呼ぶに相応しい」


 そんな皆の言葉にパックさんは言う。


「身に余る光栄です」


 そう言いながらも彼はとても嬉しそうだった。ユーダイムお爺様が言葉を添える。


「やはり噂に違わぬ剛拳の持ち主であったか」


 お爺様ははっきり頷きながらこう言ったのだった。


「それだけの武功があるのであれば、国の方からもそれ相応の礼儀をもって応じるであろう。単なる在留許可に止まらず、誰もが驚くような評価が下されるはずだ。パック殿」

「はい」

「これからも頼みましたぞ。この国の安寧を願って」


 お爺様の言葉にパックさんは右の拳を左の手のひらで包むようにして抱拳礼ボウチェンリィを示した。


「ご期待に添えるようにこれからも精進して参ります」

「うむ」


 そんな言葉のやり取りにお爺様も満足げだった。


 そうかと思えば、会場の片隅では意外な二人が対話していた。

 執事のセルテスと、あのぼやき魔のドルスだった。


「こうしてみるとやっぱり年相応のお嬢様だな」

「えぇ、昔から利発で活発なお方でしたが、やはりドレスにお着替えになると17歳という年頃に相応しい佇まいだと思います」

「そうなんだよなぁ。まだ17歳なんだよな」


 意外な言葉を放つドルスにセルテスは興味をひかれたようだ。


「ええ、まだ17歳です。この国では15歳で成人されるのですが、それは昔の生活習慣をなぞらえたものです。そこからさらに3年は、学問で学んだり、軍や職場で自らを鍛える毎日。今では18歳で大人と認めるべきだと言う意見もあると伺います」


 その言葉に頷きながらドルスは言う。


「〝子供以上、大人未満〟――、それがあのお嬢さんの立ち位置だ。とても曖昧だ。曖昧だからこそ思い悩む。悩んで苦しんでる。今の若い連中は家出したり思い悩んで自ら命を絶っちまったり、そう言うやつが少なくないって言うぜ」


 それは事実だ。世の中が変わり、若い世代と、歳をとった世代との隔たりは大きい。自分は大人なのか、子供なのか? その狭間で思い悩む若い子たちは増える一方なのだ。

 セルテスは言う。


「ですがお嬢様は自らの意思で運命を切り開かれました。何者にも屈せず、諦めて立ち止まることなく」

「そうだな」


 そうしみじみと語るドルスの言葉にセルテスは何かを感じたようだ。


「失礼ですが、もしやご家族にお若い女性の方が居られるのではありませんか?」

「鋭いな。さすがユーダイムの爺さんの執事をしてるだけあるぜ」

「では?」

「ああ、妹がいる。10歳以上歳が離れてる。今年二十歳で軍本部の事務畑をやっている。俺と違って利発でハキハキした性格だ。うまくやっているみたいだが一緒にいるとついついやかましくしちまう。だからわざと距離を置いてるんだが」


 そう語った時彼の視線は私の方を向いていた。

 ドルスの視線に気づいて私はそちらの方を見つめる。会場の片隅でドルスとセルテス、ほぼ同い年のまるで見た目の違う中年男が二人、私をずっと見守っていた。


「俺もこの歳になるとあれくらいの年頃の女の子っていうのは、どういう風に距離を取ったらいいのか分からねえ」

「ええ、そうですね。私もお嬢様が門限やぶりをして深夜にお帰りになられた時に、思わず平手打ちをしてしまいました」

「そりゃ心配になるさ。心配しない方が無理だ」

「注意して見守っていないと、どこへ行ってしまうか分かりませんから」

「ああ、まったくだ。後を追いかけるのが大変だ」

「まったくです」


 そんな風に彼らは言葉を交し合いながら、グラスを傾けていた。

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