幕間の休憩 ~査察部隊の者たちの語らい合い~
祝勝会会場である精霊神殿のほど近い場所。一軒の富農の自宅が休憩場として供されていた。
祝勝会の第1部が終わって、第2部の本会が始まるまでの間、そこで体を休めることとなったのだ。
その家の主人から出された温かいお茶や菓子などを口にしながら、私たちは話題に花を咲かせた。先ほどの舞台での数々の芸、象たちの見事な演技、ホタルの演奏の見事さ、などなど話題が尽きることはなかった。
そうしている間に時間は過ぎる。時計の針が5時半を回る。私はソファから立ち上がると邸宅の外へと歩み出た。査察部隊の仲間を探したのだ。
「みんな!」
私がそう声をかける先にはいつもの仲間たちが外の庭の片隅で
「ここにいたんですね」
私がそう告げれば、ドルスさんが言う。
「ああ、本会前の話しあいったところだ」
「それでどういった話を?」
私がそう問えば、ダルムさんが言う。
「妨害が仕掛けられてくる頃合いはいつか? って事だ」
プロアも言う。
「今回は事情が事情だ。前祭の時はアルセラが前に出なかったから取り立てて動きはなかったが、本会になれば各々に挨拶もするし、舞台から主催挨拶で長口上を述べることもあるだろう。絶対にどこかでアルセラに恥をかかせるヤツも出るだろうって話してたのさ」
「やっぱり、皆さんもそう思いますか?」
私が問い返せば皆がうなずいていた。
「そこは私も同意見です」
バロンさんが問うてくる。
「それではいつの頃合いで仕掛けてくるでしょうか?」
「そうですね――」
私は自らの考えを述べた。
「おそらくは、アルセラの舞台上での主催挨拶」
皆が私の言葉に頷いてくれていた。
「来賓や列席者たちが主催であるアルセラの挙動に集中しているその時が、主催挨拶を妨害し、アルセラに恥をかかせる絶好の機会。他にも用意されている料理などを使って騒動を起こしたり、痴漢騒ぎや喧嘩騒ぎなど、小競り合いを起こすことも考えられます」
ゴアズさんも頷いている。
「やはり」
「ええ、主催挨拶が毅然としてこなせない、主催者として会をまとめきれないと言うのがやはり主催領主その人の人格に疑いを寄せるには恰好の言いがかりの理由となりますから」
ダルムさんが同意してくれた。
「だろうな。俺たちもそれを思っていたところだ」
そしてカークさんが問うてきた。
「どうする?」
簡素な問いかけだったが彼らが私に何を求めているかははっきりとわかった。私は告げる。
「おそらく会場ではワイゼム大佐やエルセイ少佐が率いる憲兵部隊の方たちも会場警備を行なってくれているでしょうけど、彼らだけでは注意が回りきらないところもあると思います。ここはやはり私たち自身も注意を払うべきです」
私がそう語れば皆が頷いている。
「各員に到達します。アルセラの主催挨拶の頃合いに会場内に分散して妨害行為を見つけてこれを阻止してください。手段は各自の判断に任せます」
私の命令に皆が同意する。
「了解」
「了解した」
「了解です」
「心得ました」
「おう」
それぞれに返答が返ってくる。そして私はさらに続けた。
「私は残念ながら主賓としてアルセラのすぐ近くで待機していなければなりません。それでも私も可能な限り周囲状況に注意を払おうと思います」
そして私はみんなへと言った。
「必ず、アルセラの主催挨拶を成功させましょう。それができれば8割方は成功したも同じですから」
そしてパックさんがこう述べた。
「挨拶口上こそが、その人の人柄や人徳といったような物をはっきりと物語りますから。それさえできれば、後は会場内での語らい合いや歓談となります。やはり本会が始まってからアルセラ様の挨拶が終わるまでが、一番の山場となるでしょう」
とても納得のいく話だった。
そして私は会話を締めるようにこう述べた。
「それでは、以上のことを踏まえて絶対に成功させましょう」
皆が無言で頷いていた。そして、アルセラたちに気づかれないうちに私たちはそれぞれに休憩の場へと戻っていったのだった。
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