次々に繰り出される次善の策 ―動き出す実力者たち―

 大佐が言う。

 

「その通りです」


 サマイアス候も告げる。

 

「私にも対策はあります。そのためにも皆で協力して準備を進めておきたい」

「本当ですか?」


 驚きを交えつつオルデアは尋ねる。

 まず最初に答えたのはサマイアス候だ。


「そのためにもまず成功させなければならないことがあります」

「それはいったい?」


 再びのその問いに言葉を添えたのは大佐だった。


「それはすなわち〝祝勝会〟ですね?」

「ええ、その通りです。それもアルガルド討伐に向かわれているルスト隊長の皆さんがお戻りになられたら、日を置かずに催されるのが宜しいでしょう」

「できればこちらに帰着してから翌日が望ましい」


 大佐とサマイアス候のやり取りにオルデアが問うた。


「帰着してすぐにですか?」


 サマイアス候が言う。


「ええ、それだけの余力が、ワルアイユとその領主であるアルセラ候にあると顕示するためです」


 大佐も候の意見に賛同する。


「私もその方がよろしいかと思います。今ならば残留している正規軍やザカット氏のような職業傭兵の諸君もおられる。列席者数も増えるし、支援も得やすい。いかがだろうか? ザカット君」


 名を問われてザカットも私見を述べた。

 

「願ってもないことです。傭兵連中も気前よく協力してくれるでしょうぜ。なにしろ、あのルスト隊長が全力で守ろうとしたワルアイユですからね。それを手助けできるんなら、断る道理はありませんぜ」


 それはまさに傭兵の持つ心意気と言うやつだった。荒っぽい気っ風の彼らだからこそ義侠心に篤いのだ。

 意見は出揃った。反対する者は誰も居ない。互いに頷きあうと具体的な段取りへと会話が進んだ。

 取り仕切るようにサマイアス候が言う。

 

「話はまとまったな。では具体的な手はずに進もう。早速だがオルデア君」

「はい」

「あなたには、村内の方たちの意見を取りまとめてほしい。それと領内を見回っていると言うアルセラ嬢を呼び戻せるだろうか?」

「もちろんです。通信師を同行させておりますのですぐにお呼びできます」

「では急ぎ戻らせてくれたまえ。アルセラ嬢とノリア侍女長を交えた上で、祝勝会の具体的な内容や衣装の選定も行う必要がある」

「かしこまりました。直ちに」


 かたや執事のオルデアも案を出した。言われるがままでは執事は務まらないからだ。

 

「来賓の方がお集まりになられるのであれば、宿の確保もさせていただきましょう。近隣領地のご当主の方々や名士の方々もおいでになられるでしょうから。村長や村内の名士のご自宅を活用させていただきます。ワルアイユ家の別宅・別館もありますので今から準備を始めれば間に合うでしょう」


 ワイゼム大佐も案を述べる。

 

「来賓の誘導と案内、身辺警護は正規軍が引き受けよう。表向きはアルセラ嬢の名前で依頼を受けたことにする。時間が許せば来賓の出迎えもやろうではないか」

「お頼み申します。大佐殿、準備の進み具合を見て通信師を用いて、招待伝文を打伝いたしましょう」

「そちらはオルデア殿におまかせしよう。ならば会場の準備も必要だろうな」


 大佐の言葉に傭兵のザカットも意見を加えた。

 

「会場の準備と雑用は俺たち傭兵連中を使ってくれ。祝いの宴やお祭り事はなにより好きだからな。みんな喜んで手を貸すぜ」


 ならばとオルデアが告げる。

 

「では、村の南側にある四大精霊の礼拝神殿を兼ねた集会場がありますので会場にはそこを使いましょう。このところ、手入れをする余裕がなかったので荒れているのですが、片付ければなんとかなるかと」

「だったら、それこそ任せてくれ。職業傭兵ってのはいろいろな経歴のやつがいる。元庭師や土木に強いやつもいる。明日・明後日には会場として使えるように仕上げてやるよ」


 ザカットの言葉にサマイアス候が感心しつつ言う。


「それは頼もしいな。期待させてもらおう。さて宿と会場と案内役の目鼻がついたのなら、次は衣装と料理だな。村民の晴れ着はいかがだろうか? 執事殿」

「それはなんとかなると思います。流石に村が焼き払われたのではないので着る物は失われておりません。アルセラお嬢様の衣装もご用意可能です」


 そこにサマイアス候が言う。

 

「いや、主催であるアルセラ嬢と、主賓たるルスト隊長のお召し物は我がセルネルズ家で仕立てさせよう。これは我らの好意だと思ってほしい。服のサイズを調べさせてもらってセルネルズ本邸で作らせる。それをこちらで持参してから細部を着付けの際に整えれば良い」

「アルセラお嬢様の仕立てサイズはすぐに分かりますが、ルスト隊長はいかが致しましょう?」

「それなら」


 ルストの服のサイズの問題に案を出したのはザカットだった。

 

「傭兵ギルドに問い合わせればいいぜ。登録管理情報の中に身長体重の他にも服のサイズも記録されてるはずなんだ。隊長んとこの部隊員の兄さんたちの衣装サイズもそこから調べられるだろう」


 それに大佐が意見を添える。

 

「ならば、元正規軍の4人の軍装礼装はこちらで取り寄せよう。早馬を使えば間に合うはずだ」


 そして、サマイアス候が、

 

「すると残り3人はルタンゴトコートと東方人の正装ですな。そちらは私のところでなんとかしましょう」

「よろしくおねがい致します。すると残るは料理ですか――」


 そうオルデアが口にしたときだった。会議室の扉が開いた。

 

「失礼いたします」


 落ち着いた女性の声がする。声の主は侍女長のノリアだった。大佐が問いかける。


「君は?」

「ワルアイユ家の侍女長をしておりますザエノリアと申します。申し訳ありません。扉の近くで聞こえてしまいましたので」


 ノリアは両手を腰の前で両手を組みながら問いかける。

 

「あの――、祝勝会のお料理の準備でしたら、わたくしどもや村の女性たちにも手伝わせてください」

「それは構わぬが、村の片付けで忙しいのだろう?」


 サマイアス候のその言葉にノリアは真剣な表情で言った。


「祝勝会がアルセラお嬢様がご領主としてお認め頂けるか否かの重要なお話となるのであれば、それをお手伝いしお支えするのは私達使用人やワルアイユの領民の義務だと思うのです。バルワラ候の大恩があってこそ今の私たちがあるのであり、それに報いるのは人としても当然の事です」


 それは当然と言える言葉だった。ノリアはほほえみながら更に言う。

 

「それにこれぞワルアイユと言えるようなお料理でおもてなしできてこそ、ワルアイユで開かれた祝勝会の意味があると思うのです。ぜひ私たちにもお手伝いをさせてくださいませんか?」


 断る道理はない。サマイアス候は頷いていた。


「わかった。そこまで言うのなら喜んでお願いしよう」

「ありがとうございます!」

 

 そして、サマイアス候が話をまとめた。

 

「それではこれで基本的なことは決まったな。あとはそれぞれに準備を進めながら不足するものや問題点を洗い出そう。あと残るのは――」


 その言葉に大佐が頷いた。

 

「ご領主様であるアルセラ嬢のご帰還だな」

「ご領主様が戻られませんと、アルセラお嬢様のご意思で始めたとみなされませんから」

「そのとおりだ執事殿、帰投を求める伝文を打電してくれたまえ」

「承知しました。それでは早速に」


 オルデアがそう述べると同時にノリアも告げる。

 

「わたくしも準備を始めさせていただきます」

「頼むぞ、貴女にはアルセラ候とルスト隊長の着付けも行ってもらわねばならないからな」

「はい! それでは失礼いたします」


 侍女長のノリアも去っていき、ザカットも立ち上がり歩き出す。


「それじゃ俺は傭兵連中に話をしてくる。ただアルセラご領主様からの発言があってから行動するように言い含めるがな」

「くれぐれも頼むぞ」

「わかった。じゃあな」


 そう言葉を残してザカットも去っていった。

 大佐が残る二人に言う。


「おそらく、祝勝会の噂はすぐにでも広まるだろう。そうなれば問い合わせや、寄付の申し出、支援の届け出もあるはずだ」

「であろうな。それは私と執事のオルデア殿とで取りまとめよう。大佐殿は軍や政府筋からの問い合わせに対応してもらいたい」

「よろしくおねがいします。ワイゼム候」

「そちらは任せてくれ。ワルアイユとアルセラ候に傷がつかないように尽力しよう」

「では」

「ぜひに、成功させましょう」


 そう述べ合うと、互いに右手を出して握手をしあった。そして、すぐにその場から出立する。時間的余裕がないからだ。

 だがそれでもこの祝勝会は成功させなければならない。それがこのワルアイユの未来へとつながっているのだから。

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