4人の実力者たち ―メルト村極秘会議―

 政務館に入ったサマイアス候にゲストルームの一つを割り振り荷物を納める。

 そしてすぐに1階のエントランスに戻るとノリアに質問を始めた。


「ちなみに今、新領主となられたアルセラ嬢はどちらに?」

「御領主様でしたら村民たちと一緒に領内の視察に向かわれています」

「そうか……」


 ノリアの答えを聞いてサマイアスは思案げな顔になる。

 その態度にノリアは不安気に問いかける。


「何かアルセラ様にご用でも?」

「む? いや、尋ねておきたいことがあってな。とても重要な用事だったのだが――」


 そこまで言葉にしてサマイアスは意図的に話題を変えた。


「それより当面の必要物資の洗い出しを行おう。君とオルデアとで分かる範囲で構わない」

「承知いたしました。では執事様をお呼びいたします」


 そうして問われるがままにノリアは執事を呼びに行く。その背中を眺めながらもサマイアスの思案げな表情は変わらない。

 それから使用人の皆を交えて、必要物資の洗い出しとセルネルズ本領への連絡を行っていたサマイアスだったが、昼過ぎになる頃には新たな人物が政務館へと姿を現した。


 ワルアイユに残留中の正規軍部隊の事実上の大隊長役である〝ワイゼム大佐〟その人であった。

 部下であるエルセイ少佐を伴いながら彼はやってきた。

 時を同じくしてワルアイユ領に残留した職業傭兵達のまとめ役である準一級傭兵の人物も姿を現した。

 アルセラの執事であるオルデアも居る。 

 いずれもが重要な立場にある者たちばかりだ。その顔ぶれを見てサマイアスは意を決する。


「この顔ぶれなら頃合いか――」


 その呟きにすぐに反応したのはワイゼム大佐だった。


「失礼、それはどういう主旨のお言葉で?」

「おっとこれは失礼」


 詫びの言葉を口にしつつサマイアス候は問うた。


「そちらは正規軍と職業傭兵の方とお見受けする」

「いかにも」


 そう答えるのはワイゼム大佐。


「同じく」


 その言葉はエルセイ少佐。


「ああ、ヘイゼルトラム所属の職業傭兵だ」


 予想通りの答えが返ってきたのを受けてサマイアスは自ら名乗った。


「申し遅れた。それがし、ワルアイユの隣接領地であるセルネルズ家を治める現当主、サマイアス・ハウ・セルネルズと申します」


 サマイアスが答えれば残りの3人も次々に続く。


「正規軍西方司令部所属士官、ワイゼム・カッツ・ベルクハイド大佐だ」

「同じく西方司令部所属士官、エルセイ・クワルであります」

「ヘイゼルトラムの傭兵の街の準1級傭兵デカット・キーオンスだ」


 そしてさらに一人、執事のオルデアさんが控えている。

 サマイアス候はオルデアさんに訊ねた。


「どこか内密に話せる場所は?」

「はい。2階に会議室がございます」

「では案内をしてくれ」

「かしこまりました」


 そして速やかに移動する。エルセイ少佐だけは兵卒の指揮のために大佐の代理として戻って行く。残された四人で話し合いは始まった。

 それはこのワルアイユ領と新領主であるアルセラの身の上にとってとても重要な話し合いだったのだ。

 先に言葉を切り出したのは大佐だった。


「それでお話の要件とは?」


 サマイアスは答える。


「はい、私が今回先回りこちらに伺いしたのは、ご領主様が催されるであろう【祝勝会】についてなのです」


 オルデアが戸惑いながら答える。


「祝勝会、ですか? 確かにそれは必要ではありますが現状のワルアイユでは到底……」


 苦しそうな声でもたらされた言葉にその場の誰もが頷かざるを得ない。しかしそれでは済まされない事情があるのだ。サマイアス候は言う。


「それは重々承知しております。あれだけの大規模戦闘を行い、しかもその状況は常軌を逸している。現在のこのワルアイユにそれだけの余力は残されていないと見るべきでしょう」


 皆が頷いた。それだけは残念ながら認めるしかない。しかしだそれで済ませるわけにはいかないのだ。

 

「しかしながら。出来ませんでしたで済ませられる話ではないのです。なぜなら祝勝会とは――」


 サマイアスの言葉に大佐が続けた。


「祝勝会とは近隣領地や州政府、さらには中央政府に対して、地方領を収める領主が、盟主としての技量や度量、人柄や財力や権勢といったものを知らしめる重要な場です」


 大佐の言葉を受けてサマイアスは言った。


「その通りです。戦乱と言う難事にあって、自領の領地と領主が健在であり、これからもその領地を運営し管理していくことが可能であるということを主張する場でもあるのです」


 傭兵のザカットも同意する。


「そりゃその通りだ。戦闘や戦乱で財力や蓄えも吐き出せるだけ吐き出して後に何も残ってない状態だとなれば、手のひら返しして離れていく奴は絶対いる。政府筋のお役人の中には見切りをつけるやつも出るだろう。まつりごとってのは打算と実利のしろものだからな」


 そのデカットと言う男。準1級にまで登っているだけあって政治への見識も身につけているかのようだ。


「そうならないためにも、こういう〝お披露目〟みたいなのは欠かしちゃいけない重要事だ」


 サマイアスは言う。


「皆さんのおっしゃる通りです。しかも今回、前領主のバルワラ候がお亡くなりになり、まだ若干15歳のアルセラ様が暫定領主という形でこの土地を収めている」


 執事のオルデアが言う。


「しかしながらワルアイユが存続していくためには、それを州政府や中央政府に認めていただくしかありません」


 その言葉を聞いて傭兵のザカットが言った。


「つまり、アルセラの嬢ちゃんが新領主として公に認めてもらうためには何が何でも祝勝会を開かなきゃならない、ってわけか」


 大佐が言う。


「それも周囲の誰もが納得する形で。然るべき規模で行わなければならない」


 それを受けてサマイアスは言った。


「そう言う事です。私はそのための事前準備のためにワルアイユに先行してやってきたのです」

「なるほどそういうわけですか」


 大佐は思案げな表情で呟いていた。そして彼だけが持っていた非常に厄介な情報を口にせざるを得なかったのだ。

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