戦象吼える
■右翼後衛、部隊長ルドルス・ノートン――
「やるじゃねえか! 見事な炎技だ! マイスト! バトマイ!」
部隊長のドルスから称賛の言葉が上がる。それはまさに一人前の職業傭兵として名を挙げた瞬間だったからだ。
ドルスの傍らに居た職業傭兵が言う。
「二つ名は決まったな」
「あぁ」
「右双炎のイスト、左双炎のトマイ――そんなところか」
「いいな、あとで教えてやろうぜ、みんなによ」
「おう」
フェンデリオル人の名前は4音か5音が多い。その後ろの3音をとって愛称とする。その愛称に冠名がつけられて傭兵としての二つ名は決まる事になる。自ら名乗ったものが周囲に認められる者もあれば、マイストたちのように周囲から送られるものもある。
ドルスが言う。
「だが、これで敵の後詰めの第2陣はうかつに迫ってこれないだろうぜ。残るはこっちの奴らだ」
マイストたちが大技で追い払った敵第2陣の方とは反対方向、そこには潰走しつつある敵第1陣の勢力があった。なんとか逃げ延びようと迷走をし始めている。
だがすでに手は打っていた。
「パックとガキたちの守備はどうだ?」
「問題ない、もうじき終わる!」
その声と同時に背後を振り返る。するとそこには――
『よし! これで最後です!』
そう唱えるパックの姿があった。両手の掌底を使い、象の心臓にほど近い部分を掌打している。気絶させたのならば、その逆で正気を取り戻させることも可能なはずと言う理屈だ。
『覇ッ!』
右の掌打を使い、象の胸部を強く刺激する。するとそれまで気絶して横たわっていた巨体はもがくように四肢を動かし始めたのだ。
『タフィー! 俺が判るか?』
象使いの少年の一人が声をかける。するとタフィーと呼ばれたその象は速やかに体を起こし始めた。
――ヴォォッ――
鼻全体をラッパのように響かせ音を鳴らして意思表示をする。気絶していたというのに調子は悪くなさそうだった。
『よし、いい子だ! しゃがんで!』
象使いの少年が柳の枝の棒を振りながら指示を出す。象はそれに素直に従いながら、両足をかがめて体を低くする。象使いの少年が象の体を起用に這い上がりその背中にまたがれば、立ち上がる準備はできあがった。
『おじさん! 準備いいよ!』
象使いの少年がパックへとそう問いかければ、パックは頷きながら号令をかけた。
『よし! 全頭、立て!』
その号令とともに5頭の象へと、5人の象使いの少年たちが指示を出す。おとなしくしゃがんでいた5頭は互いに調子を合わせながら雄々しくも立ち上がった。
そして、一頭が鼻を天高く持ち上げ甲高く鳴り響く雄叫びをあげる。
――パオオオオオオーーッ!!――
それに続いて負けじと2頭目が低音を響かせながら雄叫びを上げた。
――バオオオオオオッ!!――
さらに残る3頭もそれに続く。
雄叫びがさらなる雄叫びを呼び、5頭は何度も繰り返しながらその鳴き声を轟かせた。
それは怒りと興奮を象徴する鳴き声だった。
それが5頭分重なり合うことで、恐るべき威圧感を醸し出していた。象たちを攻撃しようとするトルネデアス兵は存在しなかった。
象たちは解っていた。
誰が味方で、誰が敵なのかを。
そして、5頭が全員揃ってひときわ高い破裂音で鳴き叫んだ。
――パオオオオオオンッ!!――
それは戦場の空へとひときわ高く轟いたのである。
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