鉄車輪猛る
■中央前衛、ギダルム・ジーバス――
中翼部隊長の老兵ギダルムが叫んだ。
「全速前進!! 押し返せぇ!!!」
「おおおおっ!!」
指揮官たるルストが発した号令が、通信師の念話を経て伝えられる。そして、それは部隊長のダルムの宣言で中翼部隊へと伝えられた。
全速後退して引いていたが、その〝演技〟ももはや不要だ。ダルムが更に叫ぶ。
「敵はこっちの釣り針を喉まで飲み込んだ! ぶちのめして釣り上げろ!」
その言葉に戦意はさらに鼓舞され勢いを増した。
そこは戦場の最激戦区だった。
フェンデリオルの重装白兵集団と、トルネデアスの切り込み部隊とが、鍔迫り合いを始めていた。
白刃と白刃が火花をちらし合い、血しぶきがあちこちで吹き上がる。
その中で重装の傭兵集団を率いていたのは、齢59になる老傭兵だった。
彼の名は『ギダルム・ジーバス』
ブレンデッド所属傭兵の最長老だ。
3人のトルネデアス兵が一斉に襲いかかってきた。サーベルを振り上げ同時に切りかかってくる。
だが、
「舐めるな! 若造!」
ギダルムが巨大な戦鎚を両手で横に構えて掲げると、襲いかかってきた3つの白刃を受け止めた。
そればかりか一切の溜めの動きもなしに敵兵をそのまま押し返す。
「うぉっ!?」
思わず漏れる敵の焦り声を無視してギダルムの闘技が炸裂した。
――ゴオッ!――
右手で打頭部近くを、左で中程を握りしめると金属の竿を下から上へと振り上げる。敵兵のサーベルを弾きながら相手の顎を一気に砕く。
「がっ!」
鈍い悲鳴があがるなかを、返す動きで今度は打頭部側を繰り出して二人をまとめて打ち倒す。一人が即死し、一人が残ったがそれも戦鎚の竿の側の返す動きで頭側部を砕かれて死亡する。
「3つ」
低い声でつぶやくが彼の意識は次の敵へと移っていた。
彼の前方に居たのは敵切り込み部隊の中で最も体躯の大きい男だった。サーベルではなく金属製の戦棍を持っている。足が遅いためか密集した戦場の中で出遅れていた。
「居たか」
そうつぶやきながら巨躯の戦棍兵へと視線を向ける。敵側も3人を一瞬で屠ったギダルムの存在に気づいていた。
「鉄車輪のダルム! お命覚悟!」
ダルムが叫んだ。そして敵たる戦棍兵も叫んだ。
「血戦棍のガーズィー! お相手致す!」
巨大戦鎚と巨大戦棍、はからずも同系の武器だ。先に手を出したのはギダルムだった。
――ブォッ――
走りながらも左右の握りの位置を調整しながら、右の打頭部を一瞬引いて溜めをつくる。次に即座に打頭部を敵胴体めがけて打ち込む。
――ガアン!――
それに気づいた敵兵が戦棍の片方で受け止める。だがそこからがダルムの猛攻の始まりだった。
左の竿の端を勢いよく繰り出せば、それを戦棍で受ける。敵が受ければさらに打頭部を繰り出す。
それぞれの武器の右と左での撃ち合い、互いに隙を狙いながらも右と左とで返し合う。
一進一退の攻防が続いていたが、敵兵が一瞬、戦棍を大きく振り上げようとした。
それが決め手だった。
――ゴオオッ――
ダルムの戦鎚が打頭部を下から上へと強く振り上げ、打ち込んだ。そしてそれは敵兵の戦棍の先端へとヒットする。
当然、ハンマー状の武器だけに打撃力では戦鎚の方に分があった。
――ズゴォン!――
敵兵の戦棍は吹き飛ばされ、武器を失ってしまう。
――ブンッ!――
ダルムが竿の先端を敵の頸部へと打ち込む、さらに返す動きで重い打頭部を繰り出す。それは敵兵の頭部を側面から叩き潰した。
――グシャッ!――
敵兵は頭部に金属製のヘルムをかぶっていたが、重い戦鎚の打撃には何の意味もない。ヘルムごとひしゃげていた。
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