正規軍人の不満

 かたや――

 同じ野営陣の中にはフェンデリオルの正規軍の軍人たちの一団の姿も逢った。

 10名から20名の小隊単位で野営の布陣を張っており、その中の一つに西方司令本部から派遣された二人の上級将校の姿があった。

 

――正規軍・西方総司令部所属で即応憲兵部隊中隊長――エルセイ・クワル少佐――

――正規軍・西方作戦本部所属将校――ワイゼム・カッツ・ベルクハイド大佐――


 彼ら二人とその副官たちが囲んで腰を下ろしている。保存の効く野営食を食しながら休憩をとっている。その手には野立てした黒茶の入った革コップが握られていた。

 そして、周囲を警戒しつつも会話が始まった。先に声を発したのはエルセイ少佐だった。

 

「ワイゼム大佐、傭兵たちがざわめいてます。不満が出ているようです」


 その声に落ち着き払った声で大佐のワイゼムが返答する。


「だろうな。具体的な理由や証拠はなくともなんとなく〝しっくりこない〟――そう言う理由が一番、職業傭兵たちに不満を呼び、離反を招くからな」

「やはり任務内容に無理があるのでは?」

「貴君もそう思うか。エルセイ少佐」

「はい」

「だが――」


 手にしていた革コップの黒茶を傾けながら言葉を続ける。

 

「――今回は中央本部の地方査察審議部からの勅命だ。さらにその上の賢人会議の付属委員会からの付託事項が添えられている。任務の最後までの執行が厳命されている」

「ワルアイユ領の一時保護と接収、そしてワルアイユ側に不正や疑義がなければ領地返還する――とありましたね」

「手続きとしては適正なものだ。勅命も付託事項も〝今のところ〟は疑問を挟む余地はない」

「ですが――」

「あぁ、やり方が強引すぎる」


 焚き火の中の薪が〝パチン〟と音を立てて弾ける。焚き火の炎の灯りで照らされたワイゼム大佐の表情は真剣に張り詰めていた。

 

「これでは正規兵たちも承服しない。統率が取れなくなるぞ」

「ですが――彼はやる気です」

「ガロウズ少佐か」

「はい」


 ワイゼム大佐の問にエルセイ少佐の返答はある種の苛立ちをはらんでいる。それを感じ取りながらも大佐は続けた。


「やつは中央本部からの指揮権委任書を持っている。中央本部の地方査察審議部のモルカッツ准将の権限を代行すると言う名目で部隊を率いている。本作戦においては俺よりも立場が上だ」


 大佐よりも少佐が立場が上になる――

 階級が絶対条件なのが軍隊だが、まれにそのことわりを例外付ける事態が生まれることがあるのだ。苦々しい事態だが、今は承服するより他はなかった。


「一度、任務の正当性について話し合うべきでは?」

「無駄だ――」


 大佐は革コップの中を飲み干して告げる。

 

「――俺がすでにやった、一笑にふされたがな」

「そうですか」


 その声には深い落胆が現れていた。だが大佐は言う。


「だがな、少佐」

「はっ」

「ソルシオン将軍が〝貴君〟を本作戦に組み入れた理由をよく考えるのだ。そしてこれはあのモーデンハイム家のユーダイム候からも内密に報告要請を受けている。これが何を意味するか君ほどの人間ならわかるはずだ」

「はっ」

「エルセイ少佐、我々正規軍人の役割とは何だ?」


 大佐の問に少佐は一瞬の沈黙をする。思案の後に答えとなる言葉を吐く。


「職業傭兵や市民義勇兵を正しく教導し、国家防衛軍として全体を統率する〝要〟となる事です」

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