二つ名『鬼神のソウゴ』

 ブレンデッドの彼らが言う。


「実を言うとな、俺、今回の前金は手を付けてねえんだ」

「いざという時突っ返すためにな」

「本当言うと、あのパックがこう言う疑いかけられてるってんで気になってこっち来たってのもあるんだ」

「いつも一緒に飯を食ってる大切な仲間だからな」

「見てくれ――」


 そしてブレンデッドの中の一人が立ち上がり右足のズボンの裾をまくりながら語り始めた。

 

「前の哨戒行軍任務のとき、帰りの山道で毒蛇に噛まれたんだが――」


 まくりあげた裾には潰瘍のようにただれた傷跡があった。毒蛇に噛まれ、毒で患部が化膿したあとだ。そしてそれはすでに治療されているのがわかる。

 

「――パックのやつがすぐに処置してくれた。本当だったらそのまま死ぬか途中離脱するしかなかったんだが、やつに助けられて無事任務完了までこぎつけられたばかりか後遺症も残さずすぐに復帰できた。俺が今、ここ居るのはヤツのおかげなんだ」


 彼らの言葉はヘイゼルトラムの彼らにも届いていた。その中の東方人の袴姿の彼も満足げに頷いていた。

 

「そこまで信頼されるとは、ますます会ってみたくなった」

「で、試合を申し込むのか?」

「無論――」


 満足気にかたるその言葉にはライバルをもとめる粋なる求道者としての側面が垣間見えていた。そしてそれは『強さを求める』と言う人が宿す本能の一つに他ならなかった。


「――どれほどの強者つわものか手合わせしてみたいのだ」

「すきだねぇ――まぁ、お前らしいが」


 ヘイゼルトラムの彼らがそこまで話した所で、ブレンデットの彼らが叫んだ。

 

「あ! あんた――どっかで見かけたと思ったら! まさか〝鬼神のソウゴ〟か!?」

「ヘイゼルトラムで凄腕の剣術使い、東の最果てから来たっていうあの――」


 彼らに二つ名を呼ばれて、その袴姿の東方人はにやりと笑う。

 

「いかにも、それがしが『鬼神のソウゴ』だ」


 鬼神のソウゴ――その名は驚きを持って迎え入れられた。そしてそれは、その二つ名がブレンデッドにまでも轟いていることを知らしめていた。

 ちょうど、東方人の彼――ソウゴが注いだ酒が飲み干されるところだった。ソウゴもまた最後まで飲み干すと静かに笑みを浮かべながら告げる。

 

「明日は戦いではなく〝正義の行方〟をみまもる事になるだろう。お互い悔いのない選択をしたいものだな」

「あぁ、まったくだ」


 そして、皆もほぼ飲み終えてヘイゼルトラムの傭兵たちが立ち上がり言う。


「では明日はよろしくたのむぜ」


 その返礼としてブレンデッドの4人も立ち上がって言う。


「おう」


 挨拶を交わし終えると、ヘイゼルトラムの傭兵たちは歩き去った。

 そして――

 

「他の連中にも話ししてこようぜ」

「賛同者を増やしておこう」

「あぁ、他にも疑問を持ってるやつはいるはずだ」

「行こうぜ――」


 そして酒瓶を手にして各々にあるき出す。

 その4人の中には見慣れた顔が2人ほど――

 

――マイスト・デックス――

――バトマイ・ホーレック――


 ルストが初の隊長任務を得た時に、小隊の隊員として参加していた二人だった。

 そして、ルストがこの極秘査察任務でも隊員として仕事を得るきっかけを作ったのも彼らだった。

 マイストが言う。

 

「しかし――」

「ん?」


 バトマイの相槌にマイストは言った。

 

「ルストの嬢ちゃんとは俺たちもよくよく縁があるらしいな」


 マイストの言葉にバトマイも笑いながら言う。

 

「そうだな。こう言うのも悪くねえよな」

「あぁ、まったくだ」


 静かに笑い声が漏れる。彼らの姿は傭兵たちの集団の中へと消えていった。

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