傭兵の矜持―それぞれの理由―
それはまさに水も漏らさぬ品行方正ぶり――
流石にヘイゼルトラムの彼らもあっけにとられるしかなかった。その一人が東方人の彼にむけて告げる。
「ケン、お前みたいなヤツだな」
「あぁ、やっぱり噂通りの
「噂?」
その問いに東方人の彼は言う。
「
「こんな事になるたぁなぁ――」
その言葉には当惑と言うよりも、パックと言う男の身に降り掛かった災厄を同情する気配がにじみ出ていた。
沈黙し思案していたが、再び口を開いた。
「再度尋ねるが――ランパックと言う御仁、国を売るような不正を働く御仁であろうか?」
「あぁ、今回の的かけの話になるようなやつなのか?」
それが念の為の問いかけなのは誰の目にも明らかだった。ブレンデッドの4人はなかば苦笑しつつも答えた。
「あのパックがトルネデアスと内通?」
「この国を売り飛ばす?」
「あのパックが?」
「あの品行方正の権化が?」
ブレンデットの彼らは、自信を持って手をひらひらさせて声を揃えた。
「ないない!」
たまらず笑い声が溢れ出していた。
「あの聖人君子が不正を働くんだったら、傭兵やってる連中はみんな怪しいもんだぜ」
「そうだそうだ!」
「そりゃ、名前がどう見ても偽名だろう、ってところはあるし」
「昔の経歴を全く語らないしな」
「疑われる余地はたしかにあるけどよ」
「でもよぉ――」
不意にヘイゼルトラムの彼らの顔を見つめながら問いかけてくる。
「傭兵って大概そう言うもんだろう?」
その言葉は皆の心に響いていた。否定する声は上がらなかった。
「前科持ち、人殺し、盗みの常習犯」
「盗賊崩れに、闇組織・闇社会から足抜けしたやつ」
「正規軍でヘマしてクビになったやつ」
「他所の国で海賊やってた奴も居たなぁ」
「夜逃げしてきた文無しってものあったな」
「不治の病で先が長くないから少しでも家族に金を残したい――てのも居たっけ」
「とにかく――そんな事でいちいち疑いかけてたらきりねえぜ」
「まったくだ。傭兵やるやつ居なくなるぜ」
それが真実だった。そして、傭兵なら誰もが抱いている思いだったのだ。
ブレンデットの彼らのその言葉にヘイゼルトラムの彼らも素直に納得していた。
「なるほど、よく分かった」
「あぁ、腑に落ちた」
「だったら、腹は決まったな」
「おう」
その会話にブレンデッドの一人が問う。
「腹? なにがだ?」
ヘイゼルトラムの彼らが答える。
「ん? 明日の行動だ――、最後まで言うことを聞くか、自分たちの良心に従うか」
「俺たち自身の目で見たものを信じようってな」
その言葉に、その場に居た誰もがうなずいていた。
「そうだな、俺たちは金で武力を買われたが、人としての良心まで売り飛ばしたわけじゃねえ」
「金さえ貰えば誰でも殺す殺し屋じゃあねえ」
「そこまで腐っちゃいないさ」
その言葉には、ブレンデッドも、ヘイゼルトラムもなかった。傭兵なら誰もが抱いている最低限の矜持だった。
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