傭兵たちの疑念
砕けた空気になり、ブレンデッドの4人は来訪者たちを笑顔で受け入れた。火を囲んで一つの輪になる。
傭兵につきものの革グラスに異国の透明な蒸留酒が注がれていく。芳醇な香りが漂う中で彼らは身の上を語り始めた。
「俺たちはヘイゼルトラムを拠点としてる。よろしくな」
「おう――」
「俺らはブレンデット所属だ」
「最近仕事がないんでそっちの招集に潜り込んだんだ」
「何しろ300人規模だろう? かなり美味しいと思ってよ」
ヘイゼルトラムの者からの問いかけにブレンデッドの4人が答え返す。その言葉に同意するようにヘイゼルトラムからも声が返される。
「だな、半金を前金で支給だろう? こっちでもみんな飛びついてるぜ」
「宵越しの銭は持たないのが傭兵稼業ってやつだからな」
「まったくだ。だからいつまで経っても金が貯まんねえ」
「やっぱりそうだよな」
酒の勢いもあって会話が弾む。その傍らで酒を注ぎながら様子を窺っていたのが、あの袴姿の東方人だ。
会話の流れを捕らえたのか彼も声を発した。
「だが――
「てーと?」
東方人の言葉に皆が視線を向けた。
「任務内容には服従、一切の異論は認めない。任務放棄は前払い金を返却と付託がある」
「あー、それかぁ」
疑問混じりの相槌には彼以外にも疑問を抱いている者がいることが滲んでいる。東方人は続けた。
「本来、通常であればそのような約定は課さない。任務の正当性を吟味してから司令を公布するのが筋だからだ」
「まぁ、そうだな」
「じゃねえと、納得行かない連中がケツ割って逃げるからな」
「だが今回は――」
うなずき同意する声が漏れる。
「そう言う約定があった。すなわちこれは、我々傭兵に逃げられることを依頼者が恐れている事を示している」
「まぁ、そうなるな」
「それで?」
袴姿の東方人に問い返す声があがった。その問いかけの主であるブレンデッドの者たちの顔を見つめるようにして、この場に現れたその理由が告げられる。
東方人の彼が問う。
「時に聞く。今回、的をかける対象である〝ランパック・オーフリー〟と言う傭兵はそちらの所属と聞く」
同じくヘイゼルトラムの者たちが問う。
「ブレンデットに居た傭兵だってな」
「ワルアイユ領の一時制圧、領主の保護、そして、敵国内通疑いの容疑人物であるランパック・オーフリー3級傭兵の捕縛――、それが今回の任務なんだが、どうもしっくりこねぇ」
「あぁ、腑に落ちねえ」
傭兵という生き物は理詰めでは行動しない。時には直感で動くこともある。今回はその直感で微妙な違和感を感じているらしい。そして、問いかけの声が上がる。
「どういうやつなんだ? 知ってたら教えてくれないか?」
つまりは判断するための材料を求めているのだ。
ヘイゼルトラムの彼らの言葉に戸惑いつつも、ブレンデットの者たちは答え返した。
「どんなやつって言われても――」
「まぁ、その――」
「なぁ――」
顔を見合わせて記憶を掘り起こす。
ブレンデッドの街での出来事から、普段のパックの様子を口々に告げ始めた。
「朝日が登る前に起きてきて」
「午前は11時くらいまではたっぷり武術のトレーニングして」
「トレーニングじゃなくてクンフーだって言ってたな」
「あぁ。ものすごい入念にやるぞ」
「トウロってやつだったか――いっぺん真似したら滅茶苦茶きついでやんの」
「それを毎日だからな――」
「それで昼飯はまず食わない」
「食べるのもすごいゆっくりだ」
「朝食に1時間、夕食に1時間半――雑穀中心で肉料理はたまにしか口にしない」
「それから、午後からはブレンデットの貧しい家庭やその周辺の村々をまわって、薬を分けたり、病気や怪我の治療をしたり」
「働き手の居ない農家があったら、無償で手を貸してやって」
「夜は他の傭兵たちと酒盛りに出てきて陽気にしゃべるけど」
「深酒は絶対やらねえ」
「正体無くして酔いつぶれたこと見たことねえ」
「小競り合いや喧嘩が起きたら仲裁役になって」
「皆が寝静まるまで起きてて、酔いつぶれてるやつがいたら介抱して」
「もらった俸禄はほぼ貯金」
「嘘や誤魔化しや抗命行動はまず無し」
「不正やインチキとは一番縁遠い」
「それでいて冗談のわかるやつ――」
一通り言い終えてから、4人で互いに顔を見合わせる。そして、声を揃えて告げる。
「――と言うヤツですけどなにか?」
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