パックの薬師商い
メルト村は村と呼ぶにはかなり大きい。市街区もかなりの規模だ。
縦横に伸びる大通りと、その交差部に中央広場がある。噴水こそ無いものの誰でも気軽に利用できる水場もあり、水資源には恵まれているのがわかる。
本来ならばその中央広場には市がたち、行商人や大道芸人などで賑わっているのだろうが、地元民が開いている物売り以外には目立った商人の姿は少ない。この辺りはマオやホタルに尋ねたあたりとさして変わりなかった。
その中央広場の片隅に石造りの時計台がある。時刻は9時過ぎだ。
さて、パックさんは何を行おうと言うのか? それを遠巻きに眺めていれば彼は早速行動を開始した。
もともと彼は無手で武器を一切持たない。所持品や持ち物を工夫すればその風体は行商人となんら変わるところはない。彼はそのまま大通りの中央広場の片隅にて腰を下ろしながら布カバンと背嚢を下ろす。その背嚢をあけて中身を広げる。そこに入っていたのは薬草やそれを煎じた漢方薬の類だ。それも尋常じゃない位に。
「すごい――」
私が呟けばドルスが言う。
「考えたな。あれなら怪しまれない」
「普段着だと傭兵には到底見えませんからね」
「だな」
それは異国人であるパックさんの強みだった。
職業傭兵にも外国人はかなりいる。だが、パックさんのようなフィッサール人はそう多くはない。それだけに目立つが、逆に傭兵には見えにくいと言う特徴でもあるのだ。
パックさんの状況を見守っていれば、村の人々の反応はすぐに起きた。早々と村の人々が集まってくる。
集まった人々の中から一人の中年男性が声をかける。
「あ、あんた医者かい?」
不安げな震えるような声。だがパックさんは明確に力強く答える。
「いえ、薬や本草の行商をしております。ですが多少でしたら医学の心得もございます。東方の海沿い付近から参りましたので、このあたりの医療とは若干毛色が違いますが、子供の急な発熱の解熱や、心の臓の差し込み、虫下しや、破傷風の薬も持ち合わせております。よろしければ格安でお分けいたします」
そう堂々と答えながら、パックさんは地面におろした背嚢から半透明な和紙に小分けに包まれた散剤の薬を多数取り出した。
それを目の当たりにした村人たちがざわめき出し人の数はすぐに増えていく。
その状況に私は思った。
「医者が居ない?」
「らしいな、ちょっとした常備薬もことかいてるようだな」
「やっぱり噂通りですね」
その光景を目の当たりにしてドルスさんも何かを理解したようだ。そして――
「村の連中がどう動くか別動で確認する」
彼もやる気を出したようだ。
「夕暮れに待機場所で落ち合おう」
「わかりました。お気をつけて」
「お前もな」
そう言い残しドルスさんも速やかに離れていった。
よし、私も行動を起こそう。このまま見守るだけではいけない。私は着衣の上にまとっていた外套マントを羽織り直す。そして東方人風に頭から巻きつけると素顔をわかりにくくする。
「よし――」
物陰で準備を終えるとパックさんの方へと歩みを進めた。私が装うのは――
「〝
「君か、手伝いたまえ」
「〝可以〟(はい)」
――パックさんのお弟子さんという設定で行こう。
そして、パックさんの傍らに佇むと彼の即席の医者姿を見守ることになったのだ。
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