任務指示・パック独断で動く
そして私たちは目を覚ます。
任務の中で決められた時間だけ休息を取り速やかに目を覚ますのも必要な技能のひとつだ。
「んーーーっ!」
壁に寄りかかり腰掛けたまま眠っていた私は思い切り伸びをする。そして立ち上がり身支度を確認すると速やかに小屋から外へと出ていく。
「お目覚めですか」
バックさんが尋ねてくる。
「はい。もう充分です」
他の者達も次々に出てくる。5分もすれば全員が揃う。
「全員揃いましたね。では早速調査活動始めます」
ここメルト村で調べなければならない事は三つある。
一つ、横流しが発生してると言われているミスリル鉱山の状況。
二つ、ワルアイユ領の領主の状況。
三つ、村の住人たちの現状。
「調査目標のために部隊を三つに分けます」
私が発する言葉を皆が真剣な面持ちでじっと見つめてくる。
「まずはミスリル鉱山の現状確認です」
そして私はあることを思い出していた。
「カークさんがたのような元軍人の方々は、歩兵や下士官時代に主要鉱山の警備をしてたことがあるはずです」
カークさんがやや驚きながら言う。
「よく知ってるな」
私は微笑みつつも答えなかった。
「カーク、ゴアズ、バロンの3名はカークさんを指揮役としてメルト村近郊のミスリル鉱脈の鉱山の調査をお願いします」
「分かった」
三人が同意し頷き返す。
そして次。
「次にワルアイユ領の現領主の状況確認です。これはダルム、プロアの両名にお願い致します」
「分かった」
「ああ」
二人ともざっくばらんに言葉を返す。
そしてあとひとつ。
「私を含む残り3名はメルト村の現状視察です。ゲオルグ大尉とテラメノ通信師はこちらで待機していてください」
「拠点の維持ね?」
「心得た」
二人が返す言葉に私も頷き返す。
「お願いします――」
そして全員を見渡しながら私は告げる。
「何かあればこの地点を集合場所とします。それでは早速行動開始します」
「了解」
「御意」
銘々に言葉があがる。そして速やかに動き始める。
私もドルスさんとパックさんを伴いながら歩き始めた。途中、拠点に残ったゲオルグに視線を向ける。するとそこでも彼は左袖の内側に視線を向けていた。
その仕草に何らかの意味を感じながらも私は任務へと向かった。
† † †
―ワルアイユ領メルト村―
周囲を小高い山に囲まれた盆地状の土地に設けられた村だ。
広い土地の大半は農地で、その片隅に市街区がある。それがワルアイユ領唯一のメルト村である。
総人口数は3000人はいればいいほうだろうか? 規模的には街と言っても差し支えないくらいだ。
村の周囲を堅牢な外壁が囲んで入るが、建築されてから数百年が経っていることや、隣国のトルネデアスとの戦いで破損したり破却されたところもあるため、跡切れ跡切れになっている。現在では外壁としての機能は果たしていないと言っていい。
遠くから見れば、若い男たちが外壁を構成するレンガを仕分けして片付けているのが見える。再利用して街の建物の建築材料にするつもりなのだろう。
「本当ならあの外壁を完全に修復すれば、戦争の時なんかに立てこもるのに使えるんだろうがな」
私と一緒にその光景を眺めていたドルスさんが言った。その言葉にパックさんが返す。
「それだけ困窮しているのでしょう」
パックさんが言う言葉にワルアイユがどれだけ疲弊しているのかが手にとるように分かった。
だが、この光景だけを頼りに報告書を書くわけにはいかない。
さてどうするか――
私は思案していたがそれをよそに勝手に行動をし始めた人が居た。
「隊長、わたしはこのままあの村へと行かせていただきます」
「え?」
やや間抜けな声で返してしまうが、パックさんは堂々としたものだった。
詰め襟のシャツに外套マント、背負いの背嚢、そして肩から斜めにかけた大きめの布カバン、それだけが彼の携行荷物だ。
彼は立ち止まると振り返りこう告げた。
「私に策があります」
自信ありげにしっかりと答える彼に私は何かを感じた。私たちは彼から距離を置いて後を追うことにした。
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