第1話:ルストたちの潜入調査と深謀遠慮

行程7日間~メルト村到着

―精霊邂逅歴3260年8月4日早朝―

―フェンデリオル国、西方領域辺境―

―ワルアイユ領メルト村―


 私はエルスト・ターナー、とある傭兵部隊の小隊長を任されている。

 活動拠点であるブレンデッドの街を出立してから7日の工程を経て目的地であるワルアイユ領へとたどり着いた。

 さらに1日をかけて最終目的地であるメルト村へと到達する予定だ。


 七日間の途中の工程はさして語るべきことはない。 

 強いて言えば、朝、日が昇ると同時に歩き出し、夕方、日没と同時に宿をとる。軍事任務のための移動というのはとにかく効率最優先だ。

 余分な休息や物見遊山をしている余裕はない。

 また全体の移動時間から逆算してどこで宿をとるのか? 野営や野宿を取り入れるのか? 食事とその材料はどこで調達するか?

 それなら問題を考慮し手を打つのは隊長の役目だ。


 ブレンデッドからメルト村への間、安宿に泊まる機会があったのは最初の4日、残りは野営の筈だったが街道筋には〝旅人小屋〟と呼ばれる山小屋のようなものが設置されていたのでそれを使わせてもらうことにする。

 そして7日目、ついにワルアイユ領へと私たちはたどり着いた。私たちの本来の目的は極秘査察、表立って目立つわけにはいかない。


 なので、事前に調べておいた脇道のルートで小さめの山越えをする。その甲斐あって私たちは人目につかずにメルト村を見下ろす位置の高台へとたどり着いた。8日目の朝のことだった。


「やっと着いたな」


 そうこぼすのはドルスさん。


「順調に移動ができましたからね」


 とゴアズさん。


「作戦実行地潜入も、見事なるルート取りだったな」


 そう褒めてくれるのはカークさん。


「それより、行動拠点どうする?」


 とプロアさん。それにダルムさんが答えた。


「もうちょっと先に材木伐採用の作業小屋があるはずだ。今の時期は使われてねーはずだ」


 なぜそんなことを知ってるのか? と疑問が湧くが今はあえて突っ込まない。後でじっくり聞くことにしよう。


「わかりました。行ってみましょう」


 隊長として行動の採決をする。異論は出なかった。

 事前に確かめておいた地理情報を頼りに目的の場所へと向かう。メルト村の南側、山林地帯がありそこに私たちは拠点を確保していた。

 放棄された林業小屋があったのだ。

 木こりなどの森林作業する人たちが作業のための拠点とする場所だった。新しく別の場所に立て直したのか、それとも林業自体を放棄したのか。


「やっぱり手数が足りてねえのかなぁ」


 ダルムさんがしみじみと言う。確かによく見れば辺りの木々も手入れが行き届いておらず無駄な枝も目立っている。

 パックさんが口を開いた。


「商業として成り立つかどうかの問題でしょう」

「どういうことですか?」


 私が振り返り視線を向ける。


「ここまで国境付近まで主要都市から離れているとなると運送するための経費がかかるようになります。そうなれば商品としてそれだけの経費に見合った売り上げがなければなりません」

「高い値段に見合った高級品として売れたかどうかってことか」


 ドルスさんの言葉にダルムさんが頷いた。


「その通りだ。ここいらの木々は品質は悪くねえが主要都市から遠すぎて運ぶのに偉い手間を食う。近隣の領地とうまく連携しなきゃ商売にならねーんだよ」


 その言葉は言外に周囲の領地と断絶していると言っているようなものだった。

 活動拠点として目算をつけていた小屋は確かに打ち捨てられてはいたが寝泊りできないほどひどいわけではない。入り口に鍵もかかっておらず小屋の中には荷物も置かれていない。所有者がやってくることもないだろう。

 私は宣言した。


「ではここを当面の活動拠点としましょう」


 異論は出なかった。そして何より時間を無駄にしたくなかった。


「小時間の休憩をとります。保存携帯食で朝食を摂りましょう。その後に査察調査活動に入ることにします」


 私の言葉に皆が同意する。


「了解」

「わかりました」

「まぁ、異論はねえな」


 小屋の中へと入りめいめいに腰を下ろす。履物を脱ぎ八日間の行程の疲れを落とす。小一時間ほどの仮眠を取る。その間の歩哨と警戒はパックさんが引き受けてくれた。

 まずは休もう。すべてはそれからだ――

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