村長メルゼム

「村長!」

「ご苦労さまです」

「おう」


 二人の背後から馬に乗って一人の男性が通りがかった。足首の太い農耕用の馬だった。

 その上にまたがっているのは股履きのズボン姿にボタンシャツ。革製のチョッキにつばの無いコットン地のロール帽と言う実用本位の服装の男だった。足もとには革製のブーツを履き、普段から活発に動き回っていることが感じとれる。

 ワルアイユ領メルト村の村長――メルゼム・オードンだ。メルゼムが二人に問うた。

 

「午前仕事の終りか?」

「はい。これからお昼支度です」

「そうか、邪魔して済まなかったな」

「いいえ。それより村長も一緒にいかがですか?」


 リゾノは村長を昼食に誘った。だがメルゼムは言う。

 

「いや、これから領主様のところへ行かねばならないんだ」

「ご領主様のところへ? なにかお有りなのですか?」

「いや、取り立ててと言うわけではないがな――」


 メルゼムはリゾノとやり取りの中で言い淀む。

 

「――すこし今後のことについて話を詰めようと思ったのだ」


 そしてメルゼムはリゾノたちを見つめながら問いかけた。

 

「君たちも今のままでいいとは思うまい?」


 その言葉が何を意味しているのか? 分からぬリゾノたちではない。

 

「もちろんです」


 ルセルも子供を抱き寄せながら頷いていた。

 そんな二人にメルゼムは告げた。

 

「納得の行く答えを見つける。それまでは今少し耐えてくれ」

「はい」

「よろしくおねがいいたします」


 二人の言葉を耳にして頷きながらメルゼムは立ち去る。

 

「邪魔したな。ではな」


 馬で足早に走り去る村長の姿を視線で追いながら、リゾノは言った。

 

「私たちも行こうか」

「えぇ、そうね」


 ルセルも答えを返すと、左手に荷物かごを右手に幼子を抱き上げる。

 頭上には太陽が真上を差しつつある。

 道の向こうに共同の休憩所がある。

 ワルアイユの郷は昼の安らぎの時間を迎えつつあった。

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