兵士の一人として
『そうだよ。僕がありがちな展開を無意識に望んでしまって魔獣を呼んでしまうんだったら、ありがちな展開じゃなくしてしまえばいい』
正直それは、詭弁の類ではあるだろうけれど、
『無意識でも自分が望んだことが実現してしまう』
などというとんでもない能力を制御するには、結局、その手の詭弁が一番役に立つのかもしれない。
自分にとって納得のできる詭弁によって自分を丸め込んでしまえばいいのだから。
問題は、それで、無意識のレベルまで納得させることができるかどうかではあるものの、こればっかりはそれこそやってみないと分からない。
それに、こうやって自分を鍛えること自体は、何らかの形で役にも立つだろう。
得体の知れない能力に頼らなくても、<モブ兵士>として働けるようになれば、それこそ大手を振ってここで生きていくことができる。ちゃんと、<役目>を持つことができる。
向こうの世界では、こういうのはどうにも自分には縁のないことのような気がしていて、選択肢に入れるどころかまったく思い付きもしなかった。
自分じゃない誰かがやればいいと思っていた。
けれど、ここで、ティコナと出逢って、へっぴり腰だったとはいえ彼女を助けようとして魔獣と相対して、ミコナやシンに親切にしてもらって、<守りたい人達>ができて、その上でこうやって自分が思ってたよりはずっとちゃんとした形で鍛えてもらえて、本当に具体的に、
『兵士の一人として働けばいいじゃん』
って思わせてもらった。
自分が世の中においてどういう役割を負えばいいのか、向こうではまったくピンとこなかったのが、ここではちゃんと想像できる。
もうそれだけで全然違う。
それに加えて、
『モブ兵士だったら、魔獣とか出てきたら完全にヤラレ役だもんね。魔獣とか出てこられたら困るし、無意識のうちに、『出てこないで』って思うんじゃないかな』
そんな風にも思えた。
とにかくそれが、今のリセイにできる唯一と言っていい対処法だった。
この街にいていいと言われたのだから、その中で自分にできる最善の策だと思った。
実際、交代で魔獣の警戒を行っているものの、アムギフ以降、魔獣が出たという報告もない。
ちなみに、マルムの収穫については、軍が魔獣の警戒のために森に入った時についでに収穫して、業者に卸すという形をとっている。
なので、卸業者を通じてマルムを買うという形になってしまうことから、自分達で収穫するのと違ってその分の費用は掛かってしまうものの、背に腹は代えられないということもあり、<エディレフ亭>でもそういう形でマルムを都合していた。
また、当面の間は、メニューの代金に乗せることはしない予定ではあるものの、この状況が長引けばその辺りも考えないといけなくなってくるだろう。
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