ありがちな展開
初日は演習場を三周走っただけでほとんど起き上がることもできなくなったリセイだったが、家に帰ればまたティコナとミコナが労ってくれて、シンが美味しくてかつ体を作るのに必要な食事を用意してくれた。
翌日には酷い筋肉痛になったものの、それでも、ティコナのマッサージがあっただけまだマシだったかもしれない。
とは言え、真っ直ぐ立っているのさえ辛そうなリセイを見てドルフットは、
「今日は無理しなくていい。代わりに装備の手入れをしろ」
そう命じ、装備の手入れをする係の者達と一緒に、鎧などを磨いた。
しかしその時もただ単に手入れをするのではなく、装備の使い方などの説明を受け、時間を無駄にはしない。
こうして三日目には筋肉痛も和らいだのでまた演習場を走り、今度は四周、走ることができた。
が、やっぱり翌日はとても走れるような状態じゃなかったので、再び装備の手入れをする。
そんな鍛錬の様子に、
『なんかもっとこう、精神論的に『根性だ!』『気合だ!』言われるのかと思ったら、意外だな……』
などという印象を抱いてしまう。
そう。オトィクの軍の鍛錬は、実に理論的で筋の通ったものだった。少なくとも、リセイが想像していたよりはずっと。
これもきっと、一万二千年を超える過去からの積み重ねなのだろう。もしくは、シンのような転生者が過去にも何人もいて、道理に合った鍛錬方を伝授してくれたのかもしれない。
もっとも、たとえそういうのがなくても自力でそういうのを見付け出せたかもしれないけど。
向こうの世界だって、昔の人間だからって無知で愚かなだけだったわけじゃないとリセイも思っていた。科学知識はなかったとしても、きっと<知恵>はしっかり備わってたに違いないと思った。
何しろ、現代の人間でもどうやって作ったのか分からないようなものだって作ったりしてたとも聞いた。そういう人達が無知で愚かだったとは思えない。
ここでの鍛錬も、厳しいのは間違いなく厳しいと思う。だけど、基礎的な能力を確実に伸ばしてその上で技術を磨くというそのやり方は、間違いなく向こうの世界のそれにも通じるものだとリセイは感じた。
だから言われたとおりに鍛錬を積めば、自分もきっとモブ兵士くらいにはなれると思えた。
あの<自称女神>がくれたと言う、どう扱えばいいのかも分からないような得体の知れない<能力>に頼るんじゃなくて、普通のことが普通にできるようになりたいとリセイは望んだ。
『そうだよ。僕がありがちな展開を無意識に望んでしまって魔獣を呼んでしまうんだったら、ありがちな展開じゃなくしてしまえばいい』
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