ただひたすら鍛錬を

『うちの隊は厳しいぞ』


ドルフットのその言葉どおり、第七隊での鍛錬はとても厳しかった。


演習場も兼ねた庭園は様々な状況を想定した鍛錬ができるようにいろいろな地形が再現されていて、最初はそこを延々と走らされた。


一周約四百メートル程度とはいえ、山あり谷あり渡河あり藪を掻き分けて進む場所もあり、普通のランニングとは比べ物にならない過酷なものだった。


正直、リセイはもう最初の一周目で完全にグロッキーだった。


それでも、他の隊員にはまったくついていけなくても、とにかく必死に走った。


が、三周目にはもう、体が言うことをきいてくれなくなってしまう。


「ぶぎゃっ!」


完全に平坦な場所で足がもつれて倒れ、変な声が出た。


「やれやれ、こいつは思ったよりもダメだな……」


そんなリセイの様子を見ていたドルフットは頭を掻きながら呆れたように言った。


とはいえ、罵倒したりはしない。


「リセイ! お前はまだまだ使い物にならない。だから当分はとにかく走れ! この程度は散歩気分で走れるようにならなきゃ話にならん!」


言葉は厳しいものの、口調そのものは諭すようなそれだった。


「は…はい……っ!」


もうすでに声を出すのもままならなかったものの、リセイは何とかそう応える。


すると、宿舎の方からもリセイの姿に真っ直ぐに視線を向けている者がいた。


頭に包帯を巻き、腕を吊ったライラだった。


どこか熱っぽい目でリセイの様子を窺い、彼が転倒した時には、


「ああっ!」


などと声も上げてしまっていた。


そして、そのライラの姿をさらに見守る影が。


レイだった。


まるで幼い弟でも見守るかのようにハラハラとしている彼女に、やや苦笑いを浮かべながらもあたたかい視線を向けていた。


そのようなこととは露知らず、リセイは、何とか立ち上がろうとするものの、膝が完全に笑ってしまってまったく力が入らない。


こんなになるまで走ったことなど、たぶん、これまでの人生で一度もなかった。


その必要がなかったからだ。


学校が終わればさっさと家に帰ってゲームをしてアニメを見て、寝る前になってやっと宿題をはじめて、なかなか終えられずにいつも睡眠時間を削ることになって。


などという生活をするだけならなんの必要性もない。


けれど、ここで兵士になるのなら、役に立つ人間になろうと思うなら、それが必要だった。


『情けない……』


悔しくて涙まで浮かべるリセイのすぐそばまで来て、ドルフットが声を掛ける。


「悔しいか? だが、最初から何でもできる奴はいない。悔しいなら鍛錬を続けろ。鍛錬も積まずに結果が出ないことを嘆くような奴を見てくれる人間はいないぞ。


そして人間にできるのは、ただひたすら鍛錬を積むことだけだ。それが人間を作る」


「…はい……」


腕で顔を覆い、リセイは唇を噛みながら応えたのだった。


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