急成長
マルムの収穫について、兵士についでに収穫させているのなら無料で市民に配るべきでは?と思う者もいるかもしれないが、それは公共サービスは無料であるべきと考える者の<甘え>なのかもしれない。
何しろ、マルムの収穫などという、本来は兵士がするべきでないことをやらせているのだからオトィクとしてはその分の<手当て>を兵士に対して払っている。
となれば、その分について回収しなければならないのも当然だろう。
市民が納めている税金には、<兵士がマルムの収穫を行う手当て>は含まれていない。
そういうわけで、マルムの仕入れに余計な費用がかかることについて愚痴をこぼす者は当然のごとくいるものの役所に、
『無料で卸すべきだ!』
とねじ込んでくる者はほとんどいない。
ほとんど。
しかしその手の困った人間というのはどこにでもいるし、そうやって迷惑を掛ける者でも生きていることを許される社会だからこそ、リセイも、
『魔獣を呼び寄せているかもしれない』
という疑いを持たれていてもここにいることが許されているというのもある。
社会というのはそういうものだ。
こうして、リセイは、兵士としての鍛錬を重ね、少しずつ体力もついていった。
ただ、そうなると、ある時点を境に、
『すごい…! まったく疲れなくなった……!?』
と自分でも驚くほどに、何周でも演習場を走れるようになってきたのである。
これは、本人に体力がついてきたことで、
『この程度なら疲れない』
という感覚が身についたからだと思われる。
普通に歩いていただけでも疲れていたのは、
『歩けば疲れる』
というのを彼自身が無意識に受け入れてしまっていたのが原因であったから。
となれば、体力がついて、
『この程度なら疲れない』
などと無意識のレベルで思えるようになれば、<疲れない体>というものが具現化されてしまう。
最初の段階で疲れを自覚しないので、
『大丈夫。疲れてない』
と思えてしまって、そこから先も疲れを感じずに済んでしまうという形で。
発動条件はいろいろと面倒かもしれないものの、一度コツを掴んでしまえば、彼に与えられた能力は、まぎれもなくとんでもない<チート>だった。
しかも、
『いくら鍛錬をこなしても疲れない』
となれば、
『オーバーワークで体を壊す』
ということが、この手のトレーニング等について素人であるがゆえにピンと来ない彼には、それが実感として備わっていないため、逆に無意識のうちに、
『オーバーワークで体を壊してしまうかも』
などと考えてしまうこともなく、結果として、
<いくら鍛えても壊れない体>
までもが具現化していた。
「お前、すごいな。英雄<リ=セイ>の名を本当に受け継ぐのはお前なのかもしれねえ……!」
リセイが鍛錬を始めて二週間後、第二隊の面々が療養を終えて復帰する前日、ドルフットがリセイの急成長ぶりに舌を巻きながら言ったのだった。
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