世の中ってそうやって
『もう散々迷惑掛けてるじゃない? それなのに『迷惑掛けることを心配する』なんて、いまさらだよね』
ファミューレにそう言われて、
「あ……」
と小さく声を漏らしたリセイに、彼女はなおも言う。
「大人になってからだって、他人に何一つ迷惑掛けずに生きてる人なんてほとんどいないよ。いろいろあって落ち込んだ時には励ましてもらったり、体調が悪い時には看病してもらったり。
お酒を飲みすぎて迷惑掛ける人なんていくらでもいるじゃない。
私だって、気が利かなくて仕事が遅いからいっつも周りの人に迷惑掛けてるよ。
だけどそれでも私は生きてるの。私が迷惑を掛けてる分、私も、他の人が掛ける迷惑をフォローするから。
世の中ってそうやって成り立ってるはずだよ?
そうじゃなきゃ、生まれてからずっと他人に迷惑掛けどうしで自分は他人のフォローをしないで生きる人が出てくるよ?
それでいいの? って話だよね。
界歴が始まって一万二千五百年の間、私達はそうやって生きることを学んだんだよね」
と、ファミューレがそこまで語ったところで、
『一万二千五百年……っ?』
リセイは口に出さずに驚いていた。
『僕達の世界の西暦なんてまだ二千年程度だよ……? 新石器時代までくらいを含めてやっと一万二千年って感じだったかな? でも、そこからずっと続いてる暦なんてなかったはずだよね。
でも、この世界じゃ、それだけ暦が続くくらいの間、文明が継続してるってこと……?』
彼は、好きなアニメの設定を調べた時に、多少、紀元前の文明についてかじったことがあって、雑学程度にはそういうことを知っていたのだった。
だからそれだけ驚くこともできた。
そう。この世界は、技術などの発展はゆっくりなものの、途中で暦が変わったりもしたものの、現在の文明圏が発生してからすでに一万五千年以上が経過していたのである。
それはつまり、非常に成熟した文明を持つ世界ということでもある。
技術そのものは劣っているとしても、ものの考え方や価値観については、リセイが元いた世界よりも熟しているとも言えるだろうか。
ルブセンがただ横暴で権力を振りかざすだけの人間でなかったのは、これが理由なのだろう。
その一方で、<魔獣>や<魔王>といった存在により、いささか厳しい状況に置かれてもいる。
だからどうしても穏やかなだけじゃいられない。<強さ>というものも求められる。
リセイは改めてこの世界の奥深さに驚かされながらも、
『私が迷惑を掛けてる分、私も、他の人が掛ける迷惑をフォローするから』
と言うファミューレの言葉に、ホッとするものも感じていた。
自分の父親からは聞いたことのなかった言葉だった。
もちろん、それだけでは完全には納得はいかなかったものの、いくらかは気が楽になるのも実感したのだった。
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