家族の形

『何考えてんだ僕は…! エッチなラブコメ漫画じゃあるまいし……!』


期待してないと言いながらついついそういう展開を頭の隅によぎらせてしまった自分に猛省しつつ、顔が熱くなるのをリセイは抑えられなかった。


「大丈夫? 耳がすごく赤いけど」


ベッドに顔はうずめてても耳までは隠せなくてティコナにそう訊かれ、


「あ…うん。疲れが出たのかな……」


などと、いささか意味不明な返答をしてしまった。


「そうなんだ? じゃあゆっくり休まなきゃね」


ティコナは穏やかに微笑みながらそう返してくれる。


そんな彼女の丁寧なマッサージは心地好くて、なすがままになっているうちにリセイはスーッと熱が引いていくのも感じ、いつしかすうすうと寝息を立ててしまっていた。


大変な一日だったし、無理もないだろう。


すっかり力が抜け切った彼のふくらはぎをマッサージしながら、ティコナも嬉しそうに微笑んでいた。自分のマッサージでリラックスしてくれたことが嬉しかったから。


そうして完全に寝付いたリセイにシーツを掛けながら、ティコナはそっと店に戻っていく。




「彼、どうだった? 怪我とかしてなかった?」


ティコナが店に戻ると、注文の品を運びながらミコナが訊いてきた。


「うん。擦り傷とかはあったけど、大きな怪我はしてなかった」


ティコナが背中を流すと申し出たり、マッサージをしてくれたのは、つまりそういうことだった。彼が怪我をしてないかどうかを確認するためにということだ。


「男の子って、怪我とかしてても強がって隠そうとしたりするもんね」


ミコナが言うと、


「それが男ってもんよ。弱みは見せらんねえ。特に、惚れた女の前じゃな」


常連客の一人が、赤い顔をしてガハハと笑いながら声を上げた。


けれどティコナは、


「そういうの分かんない。怪我とかしてたらちゃんと教えてくれないと手当てもできないし、手当てしなきゃ治りも遅くなるじゃん」


それはティコナの正直な印象だった。


「まったくよねぇ。ホント男ってつまんないところで意地張るんだから始末に負えないの。


その点、うちのシンはちゃ~んとわきまえてくれてるから♡」


桜色に染まったふっくらとした頬を両手で押さえ、ミコナはふくよかなその体をくねくねとくねらせる。


「はいはい、ごちそうさま」


常連客達は慣れているらしく、笑顔で受け流していた。


シンは厨房の中で苦笑いだが。


ティコナはそんな両親が大好きだった。ちゃんと自分の目を見て話してくれて、自分の言葉に耳を傾けてくれる両親が。


リセイが求めても得られなかった家族の形がそこにはあった。


とは言え、この世界の男性はどうしても<亭主関白>を理想としているところがあるので、これはシンによるところが大きいのかもしれないけれど。


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