全軍をもって

ジェインとデュラの報告を受けて、オトィクに配備された全軍が動く。つまり今回の相手はそれほどのものだということだ。戦力を出し惜しみして順次派遣していては各個撃破されかねないというくらいに。


同時に、すべてを向かわせてしまっては街の守りがなくなってしまうので、今日は完全な休暇中だった第一隊までを非常召集して街の守りに充てる。


それが当たり前にできる体制がすでに整えられている。


『これじゃ僕の出番なんてないんじゃないのかな…?』


機敏に動く兵士達の様子を見て、リセイはそう思った。


『貰い物のチート能力に頼ってる僕なんか何の役に立つんだろう……?』


そうだ。頼りになるのは、結局、ぽっと出の英雄じゃなく、地道に不断の努力を続けてきた、地に足の着いた者達なのだ。


リセイはそれを思い知らされていた。


けれど……


『でも、僕だって、誰かの役に立ちたいと思うんだ。ただの足手まといで迷惑かけるだけなんて嫌だ……!』


素直にそう思えた。


ティコナの家に居候して、ベルフの捜索に出たらみんなについていけなくて、これじゃ、親に養われて、自分に何ができるのか分からなくてただウジウジウダウダしてただけの向こうの世界での暮らしと何も変わらない。


だったら、せめて体を鍛えて訓練して、モブ兵士としてでも働けば、少しは役に立てるんじゃないか?


『だけどそれも、あの魔獣からこの街が守られてこそだよね。


だからお願い、負けないでください…! 隊長さん…レイさん……!』


そんな風に祈っていたリセイの前に、鎧に身を包んだルブセンが立ち、厳しい顔つきで見下ろしながら言った。


「これよりお前に新たな<試練>を与える。軍と共に再びマルムの森に向かい、共に戦え。そうして身の証を立てて見せろ」


マルムの森に戻るために準備を整えていたジェインとデュラはそのルブセンの言葉にギョッとなり、思わず視線を向けた。


『いや、ルブセン様。いくらなんでもそりゃ酷すぎませんか……!?』


とは思うものの、口には出せない。出せないが、実際に歩くこともままならないくらいに疲れ切っていたリセイの姿を見ていただけに、視線で抗議の意思を示す。


が、当のルブセンはそんな二人に一瞥を向けることさえなかった。所在無げに椅子に座って皆の様子を見ていただけのリセイを厳しく睨み付けるばかりだ。


するとリセイはまだおぼつかない自分の足腰をぐっと掴み、強引に自分を立ち上がらせた。そして、


「はい…! 分かりました」


はっきりとそう応える。


『おいおい! そこは断れよ!! 断ったっていいんだぞ!?』


ジェインとデュラが心の中でツッコむものの、当然、それは届くことなく、リセイは再び兵士達と共に馬車に乗り込み、マルムの森に向かったのだった。


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