戦場

再びマルムの森に向かう馬車の中で、リセイは考えていた。


『足手まといは嫌だ。迷惑を掛けるのは嫌だ……!』


そんなリセイに、


「ほれ、これ食っとけ。追い詰められた時に頼れんのは結局自分の力だけだ。こうやって少しでも口に入れたものが最後の最後に自分を動かしてくれる。その最後の一瞬に体を動かすことができた奴が生き延びる。


戦場ってのはそういうもんだ」


ジェインが自分の袋からパンを取り出してリセイに渡した。それは、保存用の、カロリーの高い木の実が練り込まれた固いパンだった。


「ありがとうございます」


受け取ったそれを、早速、口に運ぶ。けれど、柔らかい食べ物に慣れたリセイには決して『美味しい』と思えるものじゃなかった。なかったけれど、この世界で実際に生きている<先輩>のアドバイスにはちゃんと意味があるとここまでの経験だけでも思えたので、少しずつ、何度も何度も噛んでは飲み込んだ。


木の実は油分が多いらしく、アーモンドよりも味が濃い気がして、パンと一緒に噛むと少しだけ美味しい気もした。


そうして何とか食べ終えた頃、マルムの森へと到着する。


「急げ! 急げ!!」


掛け声に急かされて兵士達が整列。リセイも仮に編入された第七隊にジェイン、デュラと共に並ぶ。


ビリビリと痺れるような緊張感が、リセイにも伝わってきた。


だが、その時……


「おい! 誰か下りてきたぞ!!」


先に山に偵察に入ろうとした兵士達が声をあげ、その場にいた全員の視線がそちらに向けられた。


「ライラ!? レイ!? 第二隊だ! 第二隊が下りてきた!!」


その声にどよめきが起こり、そして実際に山道の入り口に人影が見えると、


「おお~っ!?」


と歓声が上がった。


そこにいたのは確かにライラとレイをはじめとした第二隊の面々だった。


皆一様に憔悴しきった様子だったものの、


「全員いるぞ! 全員無事だ!」


の声に、再び、


「うおお~っ!!」


と歓声が。


「アムギフはどうした!?」


「まさか第二隊だけで倒したのか!?」


「いやそんな…! さすがに逃げてきたんだろ?」


「でも、アムギフ相手に逃げてこれただけでもすげえぞ!?」


興奮した兵士達は口々に驚きを言葉にしていた。


そんな中で、指揮官を任されていた筆頭騎士が、


「皆、無事でよかった。しかし疲れているところすまないが、報告を」


出迎えた兵士に支えられたライラに声を掛ける。


すると、頭からの出血を手で押さえ、疲労困憊といった様子のライラだったが、


「兵士達の果敢な働きにより、アムギフ一体を撃破。負傷者は多数なれど死亡ありません」


と報告。


「マジか!?」


「すげえ!!」


「ホントに第二隊だけでアムギフ倒しちまいやがった!!」


アムギフを迎え撃つために集められた軍全体が歓喜に包まれたのだった。


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