本当の戦い

『僕だけ逃げるの!?』


そう思ったリセイだったものの、やっぱり脚には力が入らなくて、ジェインにほとんど担がれるようにして山を下った。


そして馬を繋いでいたところまで戻ると、馬も異様な気配を感じてか、酷く怯えている様子だった。


「どうどう!」


デュラが馬をなだめて落ち着かせようとする。


それはライラが乗っていた馬だった。


「それ、隊長さんの…!」


リセイが言うと、


「隊長の馬が一番、気性がおとなしくて扱いやすいんだよ。だからこういう緊急の時には隊長の馬を使うことになってんだ!」


とデュラが説明する。


リセイは思い知った。


彼らは、こういう時のために普段から訓練を積んできているプロフェッショナルなのだと。


自分は確かにあのトランやライラに勝ち、レイとの力比べにも互角だったが、こういう時には何の役にも立たない、単なる<素人の子供>なのだと。


何の役にも立たないのだと。


だから、ジェインに放り上げられるようにして馬に乗せられその場を離れながらも、強く祈った。


『負けないでください! 隊長さん! レイさん! 皆さん……!』


祈りながら、ライラが、レイが、兵士達が果敢に戦って、あのヒグマのような<魔獣>を退ける光景を頭に思い浮かべた。


ライラがアムギフの攻撃を華麗に躱しつつ剣を打ち付け、レイがアムギフの前足を掴んで押さえ付け、兵士達が息の合った連携で確実にダメージを与えていく姿を。


そして最後には、アムギフを倒してしまう結末を。


自分のそんな想像が現実になることを、強く強く願った。


とは言え、いくら頭で思い浮かべてもそれは所詮、想像に過ぎない。


実際の<戦況>は分からないまま、オトィクの街に戻り、ルブセンに、アムギフが出たことを告げる。


それを受けてルブセンは、


「対魔獣戦! 第三隊から第七隊まで対魔獣装備にて出撃! 第二隊の支援と救助に当れ! 第一隊を緊急招集し対魔獣装備で防衛配備!」


簡潔で明瞭な指示を出し、騎士や兵士達はその通りに動いた。


平和な日本では日常で見かけるような動きじゃなかった。


『これが、魔獣とかが普通にいる世界の人達……』


ダラダラしていたら自分の命すら守れない世界の現実を目の当たりにして、リセイは息を呑むしかできなかった。


アニメとかで見ていたのとは比べ物にならない迫力だった。


だから思う。


『きっと、隊長さん達も大丈夫だ……!』


と。


自分なんかが案じるよりきっともっと上手くやってくれると。


自分の強さなんて所詮は借り物の<ずるい能力>。毎日厳しい訓練をしてきてるはずの人達が、<本当の戦い>で自分より弱いはずがない。


リセイにはそう思えたのだった。


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