イベフ

上手くイメージできないことで、ティコナに逢って一緒に街に来た時の様に、リセイは疲労を感じていた。やはり無意識のうちに疲れを受け入れてしまっていたからだ。


他の兵士達は慣れているのでどんどん先に進むが、リセイはまったく付いていけない。


「遅いぞ! 何をやっている!」


騎士でありながら先陣を切って藪の中を進むライラに叱責されて、


「は…はい! すいません……!」


とは応えるものの、もう体が言うことをきかない。


『なんか、僕の<能力>って戦うことに特化してるのかなあ……』


ここまで有り得ないことが実現してきたことで<能力>が授けられていることについてはもう疑っていないものの、肝心の能力の正体がいまだに掴みきれなくてリセイは戸惑っていた。


膝に力が入らず、足がもつれてその場に倒れ込む。


「お前、変な奴だなあ。腕は立つのに体力はこれとか」


馬車の中で話しかけてきた、<トランの従兄>が戻ってきて起こしてくれた。


「すいません…なんか、上手くできなくて……」


リセイは本当に申し訳なさそうにそう応えた。


その様子に、手を抜いてるわけでもサボってるわけでもないのが感じられて、誰も怒る気になれなかった。


ライラも、憮然とした表情ではあるものの、実は怒っているわけではなかった。どういう表情をしていいのか分からなくてそうなってしまっているだけである。


だが、その時、


「うわっ!?」


と誰かが声を上げた。


「!?」


そのただならぬ声色に、全員が身構える。特にライラとレイはすでに剣まで構え、完全に臨戦態勢だ。


単に躓いたとかそういう類の声でなかったことも分かっている。明らかに危険を察知した時の人間の声だ。


が、リセイを除く全員が目にしたのは、声を上げた兵士の目の前の枝から垂れ下がる細長い影。


「イベフ…?」


誰かが呟くように言って、


「なんだイベフかよ。脅かすな」


一気に緊張が緩んだ。


「……?」


疲れ切ってやっと顔を上げて視線を向けたリセイは、兵士が手にした木の枝に絡みつく生き物の姿を見た。


『ヘビ……?』


リセイがそう思ったように、イベフはヘビによく似た生き物だった。実を言うと、退化して今では痕跡しか残っていないが、手足を持つ、ヘビよりトカゲに近い生き物ではあるものの、実質的にはヘビと変わらないだろう。


このイベフが、マルムの森の食物連鎖の頂点だった。大きいものになると一メートルを優に超え、ウサギくらいの大きさの動物くらいなら飲み込んでしまうものの毒はなく、人間のような大きな生き物には襲い掛からないので基本的に危険はない。ただ、さすがに踏みつけたりすると、イベフの方も自らを守ろうと攻撃はしてくるけれど。


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