成人の儀

そうやってリセイと兵士達が話をしている一方、馬に乗って少し先を行っていたライラとレイは、馬を寄せて抑え気味の声で会話していた。


「お前はどう思う? レイ」


ライラの問い掛けに、レイは、


「やっぱり普通じゃありませんね。あいつの体、少しも鍛えられていません。それこそ赤ん坊と変わらない。なのにあの力。有り得ませんよ」


なるべく表情を変えずに前を向いたまま応える。


「お前もそう思うか? 確かにあいつの、リセイの体は鍛えられた人間のそれじゃない。あんな力が出せるはずがないんだ。もしそんなことができるとすれば、我々のそれとは違う種類の<力>だ。


ルブセン様は『大丈夫』とおっしゃっていたが、私はあいつに気を許すのは危険だと思う」


ライラも正面を向いたまま、決して大きな声ではないもののはっきりとそう言った。リセイについて油断はできないと考えているのだ。


レイも言う。


「俺も同感です」


しかしその上で、


「でも、あいつは悪い奴じゃないというのも、正直な印象です。世間知らずで浮世離れしてるが、俺達とは違うかもしれませんが、少なくとも<悪党>じゃない。


それは隊長だって思うでしょ?」


と笑いかける。そんなレイに、ライラの顔がカーッと赤く染まっていく。


「それは、まあ……昨日は焦ったが、あいつが私のことを心配してくれてたのは分かるんだ。私だってそこまで朴念仁じゃない……


それに……」


「それに…?」


「あいつ……可愛いし……」


最後は消え入りそうな声だったが、ライラは確かにそう言った。


そんな彼女に、レイが語りかける。


「ライラ、お前は本当に頑張ってるよ。女だからどうしたって騎士としてやってくには不利な面もある。それを跳ね返して、実力で隊長にまでなった。


でもな。人間、張り詰めてるだけじゃいつか壊れちまう。緩む時だって必要なんだ。


昨日のお前を見て、俺は思ったんだよ。今のお前に必要なのは、リセイみたいな奴なんじゃないかって。


心まで許す必要はない。油断もしないでいい。ただ、あいつをお前の息抜きに利用してやれ。


そういう意味での抜け目なさも、これからは必要になってくるぜ」


「レイ兄……」


穏やかに諭すように話すレイに、ライラの表情はまるで少女のそれに戻っていた。無理もない。まだ彼女は二十になったばかりなのだから。


この世界では、早ければ十五で成人できる。女性の場合はルトウという、ビーフシチューのような料理が作れるか、タリシュと呼ばれる、女性が羽織るケープのようなものを縫えるかで、成人として認められる。


一方、男性の場合は、仕事で一日に三十ゼルを稼ぐか、剣で上級者に一撃を与えるか、体術で認められるかで、成人と認められるのだった。


しかし女性ながら剣士を目指したライラの場合は、男性と同じく剣で成人の儀をこなすことを望み、十七でレイに一撃を食らわせたことで、成人と認められたのだった。


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