挨拶

『今日から私の隊で預かることになったリセイだ』


そう紹介されたリセイに、スッと立ち上がって手を差し出してきた者がいた。


一見しただけだと痩せているようにも見えるが、袖からのぞく腕などは明らかに尋常じゃない鍛え方をしていると分かる、屈強そうな男だった。三十になるかどうかという感じだろうか。


「俺はこの隊の副長で、レイだ。ホントは<リーセイ>ってんだが、似た名前が多くて紛らわしいから<レイ>って名乗ってる。


にしても、お前、若いくせにすげえな。うちの隊長を負かすなんてよ。俺でも勝てねえのに」


いかにも武骨そうな顔つきながら人懐っこく微笑わらう彼に、リセイも手を差し出し、


「ありがとうございます」


と応えながら握手を交わした。瞬間、レイはニイッと悪戯っぽい笑みになり、ギリッと手に力が込められるのが分かった。


「!」


反射的にリセイもそれに応じ、力を込める。すると、リセイ自身信じられないくらいの力が出るのが分かった。これも<能力>によるものなのだろう。


「!?」


それを受けてレイの表情が変わる。


『こいつ……っ!』


最初は意表を突くつもりだったのが腕だけでなく全身に力が込められる。


すると、握手を交わした二人の間でギリギリと空気までが軋むかのような圧が生じているのがその場にいる他の者達にも分かった。


「すげえ…副長を本気にさせやがったぞ、あの小僧……」


「腕力だけなら隊長にだって勝てるのに…」


隊員達が息を呑みながら呟く。


「やるじゃねえか、小僧……っ!」


「いえいえ、副長さんこそ…!」


こめかみに青筋を立てながら全力で締め上げようとするレイと、それに応じるリセイ。


『漫画でこんなシーンあったな…』


その時点で出せる全力で抗しながらも、リセイはそんなことを考えていた。彼の持つイメージがどうやら具現化しているようだ。それがなかったら、一瞬で屈服させられていたかもしれない。


が、そんな二人に対して、


「挨拶はもういいだろう? そのくらいにしておけ…!」


やや不機嫌そうな声が掛けられた。


「はっ!」


レイはすぐさま手を離し、右手の拳を左胸に当てて敬礼する。


「あ……」


リセイも思わず視線を向けると、そこには、憮然とした表情で二人を睨み付けるライラの姿が。


その迫力にピシッと背筋を伸ばして直立不動の姿勢になる。敬礼の仕方が分からなかったのでそれが一番確実だと思ったようだ。


緊張した面持ちで改まるリセイに、


『レイにも力負けしないとは、昨日のあれはやっぱりまぐれではなかったのか……』


などと考えながら、


『やはり認めるしかないのだな…こいつの力を……』


不満はありつつも、ライラも現実を受け入れることにしたのだった。


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