お前に命じる
「うむ。来たか。よろしい。ならば早速、改めてお前に命じる。
こちらのライラの隊に入り、ベルフ捜索に当れ。
以上だ。質問はあるか?」
いかにも必要最低限のことを簡潔に述べるルブセンに、リセイは、
「あの、お休みとかはあるんでしょうか?」
などと、思ったことが自然に口に出た。向こうの世界では考えられなかったことだったが、不思議とこちらでは当たり前のようにさえ思える。
たぶんそれは、彼に与えられた<能力>に加え、眼前のルブセンに対するある種の<信頼感>によるものだったのかもしれない。厳しいけれど自分の感情で理不尽なことはしない人だというのが、昨日の一件で感じ取れたのだろう。
リセイがそう感じたとおり、『質問はあるか?』と口にしただけあってルブセンは、
「五日働いて一日休みだ。これは一般的な兵士と同じである。仕事は
ただし、お前は試練中の身ゆえ、給金は出ない。これについては異論は認めない」
毅然とした態度できっぱりと告げる。
『給金は出ない』と言いつつ、夕食も入浴もありというのは、実質、その分の給金が払われているのと同じと感じ、
「分かりました。異論ありません」
とリセイも応えられた。
ただ、ルブセンの執務室を出て前を歩くライラに対しては、
『ひょっとして、怒ってる……?』
と感じてしまう。明らかに刺々しいオーラが立ち上っているように思えたからだ。
「あ…あの、よろしくお願いします」
リセイが声を掛けても、
「……ああ……」
などと素っ気ない。
『やっぱり昨日のことだよね……』
リセイにはまだここの社会的な仕組みはよく分かっていなかったものの、それでも彼女が騎士だということは少なからず責任のある立場だろうから、それがあんな形で自分のような子供に負けたとなれば面白いはずはないだろうと思える。
ただ、だからといってここで変に気遣うようなことを言うとかえって逆効果のような気がして、取り敢えず今はおとなしくしておいた方がいいと考えた。
彼女も、あのルブセンの下で責任ある立場に就けるような人なら、自分の感情で理不尽なマネをしてくるとは思えない。
しばらくすればきっと自分で自分の気持ちを整理できるに違いない。
『となれば、僕は僕の役目をちゃんとすればいいんだろうな……』
そんなことを考えているうちに、ライラが隊長を勤める部隊の待機室へと来て、
「今日から私の隊で預かることになったリセイだ」
やはり不機嫌そうな憮然とした口調で、待機室の中で控えていた兵士達にリセイを紹介したのだった。
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