フェロモン大爆発

ルブセンの屋敷は、個人の邸宅というよりは、あくまで<役所>だった。その敷地内にルブセンの住居もあるだけで。


さらには軍の施設や兵舎も一緒なので、広大な敷地を要するというのもある。


「リセイです。ルブセン様の言いつけで来ました」


いくつかある門のうち、業者などが出入りする通用門に行きあたって、そこの門番らしき兵士に告げると、


「少し待て。今、案内の者が来る」


と言われた。実は、役所の正面に立派な門があるのだが、これは王族や貴族などを迎えるためのものなので、うっかりそちらから入ろうとすると、


「何のつもりだ!!」


とどやされてしまうところだった。市民が訪れる時に通る門もあり、昨日はそちらを通って入った。が、少々あやふやな記憶を辿ったので別の門に来てしまったということだったのだが、職員もこちらから出入りするのでこれが正解だったりする。


が、リセイを案内するための係員は、てっきり、昨日と同じ門に来るものと思いそちらで待ってくれていたようだ。なので、その係員を呼びに行くために待たされたのである。


「ああ、おはようございます! すいません。まさかこっちの門に来られるとは思いませんでしたので…!」


そう言って現れたのは、動く度にゆさゆさと揺れる胸がやたらと目を引く、明るい髪色のどことなくおっとりとした感じの、二十代前半くらいの女性だった。


「係員のファミューレです。私がご案内します」


「あ、はい。よろしくお願いします……っ!」


さすがに年頃の少年だけあって、リセイも彼女の胸の存在感には思わず目を逸らすしかなく、ややドギマギしてしまった。昨日、ルブセンの前に引き出された時よりもよっぽど焦っている。


けれどファミューレは慣れているのか元々そういうのを気にしない性質なのか、そのままリセイの前を歩き出す。


リセイも彼女の後をついていくものの、その後ろ姿もなんとも言えない色香が溢れていて、特に腰の辺りなど、うっかりすると吸い寄せられそうになる錯覚さえあった。


『なんでこんな<フェロモン大爆発>みたいな女の人を案内役にしたんだろう…? まさかこれ自体が何かのテストとか……?』


リセイがそんな風に穿った見方をしてしまうのも無理はないだろう。しかし実は他に手が空いている者がいなかったので彼女が当てられただけというのが本当のところだったけれど。


なんにせよ、リセイはファミューレの案内で、ルブセンの執務室へとやってきた。


「失礼します」


ファミューレがそう言ってドアを開けると、正面には、今日も堅苦しい感じの顔つきをしたルブセンが大きな机の向こうに座り、机の手前左側には、あのライラが仏頂面で控えていたのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る