役目

「ティコナ! リセイ! ああ良かった……!」


「無事だったか…」


ルブセンの屋敷の敷地を出た途端、声が掛けられる。ミコナとシンだった。二人が心配で待っていたらしい。


「ママ……!」


両親の姿が見えてホッとしたのか、ティコナはあどけない様子でミコナに抱きつく。


その光景に、リセイもホッとする。自分の所為でこれをなくすことになるとか、そんなのは嫌だった。


そして、妻と娘がしっかりと抱き合っているのを確かめたシンも、ホッとした表情で、


「リセイも大丈夫だったか?」


気遣ってくれる。そんな彼に、リセイは、


「すいませんでした、僕の所為でティコナまで……!」


深々と頭を下げる。


「いや、君は悪くない。悪いのは難癖を付けてきた方だ。ルブセン様はその当たり前をちゃんと分かってくださってる方だからきっと寛大な処置を下してくださるとは思ってたが、本当に良かった。


とは言え、何か言われたんじゃないか?」


丁寧なシンの言葉に、リセイは背筋を伸ばしながら、


「はい。ベルフの捜索に参加しなさいと言いつけられました」


と答える。


するとシンも少し険しい表情になりながら、


「そうか…決して楽な役目じゃないが、余所者の君に対しての罰だと考えれば温情なんだろうな。私も、ここに流れ着いた時には、二年間、馬糞掃除をやらされたし。まあ、そのおかげでミコナと出逢えたというのもあるんだが」


そう呟く。もっとも、『ミコナと出逢えた』とまで言ったところで目元が穏やかに緩んでいたが。


シン自身、それに気付いたのか、


「ごほんっ!」


と咳払いして、


「ま、まあ、とにかく頑張ってルブセン様に認めてもらうことだな。結局、それしかない。


ここでは皆、それぞれちゃんと役目を持って生きてる。<向こう>ではそういうのを見付けられなくて鬱々とした毎日を送ってるのもいたかもしれないが、ここは違う。


それは圧倒的に人間の数が少ないからってのもあるんだろうが。


いずれにしても、せっかくの<役目>なんだ。これはチャンスだよ」


改めて<先輩>としての言葉を提示する。それを受けてリセイも、


「はい…!」


と力強く応えられた。




そして翌日、


「これ、お弁当。気を付けてね。怪我しないでね」


ティコナから手作りの弁当をもらい、


「ありがと」


少し照れくさそうに微笑みながら礼を言って、リセイはルブセンの屋敷へと向かった。正直、道順はあやふやだったものの、碁盤の目のようになったオトィクでは、方向さえ間違ってなければ屋敷が見える場所には辿り着ける。


そのための都市計画であり、不必要なくらいに広く塀で囲まれた屋敷なのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る