転生者
『君ももしかして転生者なのかな……?』
ティコナの父親らしい男の人の問い掛けで、リセイもさすがに察してしまった。
「もしかしてあなたも転生者……っ?」
問い返すリセイに、男の人はゆっくりと頷く。そして、
「僕の名前は
と。
「……!」
思わぬ展開にリセイは呆気に取られる。それに対して伊藤真一郎と名乗った男の人は経緯を話し始める。
「僕がここに来たのはもう二十年前になるかな。でも僕の場合は何の能力もなかったからか、この世界に馴染むのが精一杯だった。
だけど、ティコナの母親、ミコナと出逢って、彼女に助けられたことでなんとかやって来れたんだ。
幸い、僕は少し料理ができたからミコナの両親がやってた食堂でメニューを考えて、それが人気になってね。おかげでここの人達に必要だと思ってもらえたみたいで。
ティコナも生まれて僕はここで幸せを掴めた。
君はここでどう生きる……?」
まだ店に残っていた一人の女性客と楽しげに雑談しているミコナを見ながら
伊藤真一郎は呟くように言った。
けれどリセイは、
「……分かりません……」
そうとしか答えられなかった。
授けられたという<能力>が本当にあるのかないのかまだ実感できないし、何か指令を受けたわけでもない。ここが魔獣や魔王がいるという世界だとしても、それを倒せとか言われたわけでもない。
ただ『生き直すチャンスが与えられました』と言われただけ。しかもそれさえ、夢だったのか現実だったのかも分からない。
うなだれるしかできない彼に、真一郎は穏やかに微笑みながら改めて声を掛けた。
「だったら、自分の生き方を見付けられるまで、うちで働かないか?」
「え…?」
「料理とかできなくてもいいよ。でも皿洗いくらいはできるだろ? うちもそんなに大儲けできてるわけじゃないから給料までは出せないけど、食事と寝床だけは保障する。
少なくとも君は危険なタイプじゃなさそうだしね」
「あ……はい。よろしくお願いします……!」
正直、深く考える余裕なんてなかった。こんな都合のいい展開が起こることに何か裏があったりしないのかと推測できるほど頭も回っていなかった。ただとにかく、ここで生きていく上で足掛かりになりそうなチャンスが巡ってきたことにホッとしていただけだ。
するとそこに、
「ただいま。ルブセン様にベルフのこと伝えてきた。兵隊を出して退治してくれるって」
そう言いながらティコナが帰ってきた。
「それは良かった」
「これで安心ね」
ティコナの言葉にミコナと女性客がホッとしたように声を上げた。
ただ、真一郎だけは、
「ベルフは退治できるかもしれないにしても、どうしてベルフが出たのかは、気になるところだけど……」
と呟いたのだった。
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