もてなし

こうしてとにかく自分が無事だったことを告げた上で、ティコナは、


「私、今からルブセン様のところに行ってベルフが出たって話してくる」


と言った。すると客の一人が、


「おう! じゃあ俺が一緒に行ってやる。ちょうどもう帰るところだったしな」


手を上げた。


「ありがとう、モニセさん」


顔馴染みらしく、ティコナもすぐに礼を言う。


「分かった。じゃ、お願いね、モニセ」


ティコナの母親に見送られ、ティコナとモニセが店を出て行った。


一方、リセイは、


「彼、私の恩人だから、ちゃんともてなしてあげてね」


ティコナが母親に告げたので、取り敢えず食事を振舞われることになった。


「あ…ありがとうございます……」


リセイも精一杯の気遣いで何とか礼を口にした。


「いいのよいいのよ、なんたってティコナの恩人だもんね。


それでさ、もし今日の宿とか決まってなかったら、うち、宿屋もやってるし、泊まってきなよ。お代はいいからさ」


朗らかに話しかけるティコナの母親に圧倒されながらも、リセイは、


『…やっぱり、あの<能力>はあるのかな……』


などと改めて思った。こんなにとんとん拍子で食事と宿にありつけるなんて、明らかに都合が良すぎる。ましてや自分は、ここの人達からすればどこの誰とも知れない<余所者>なのだから。


こうして、ホッとしながら、出された食事を見てリセイは驚いた。


『え…? カツ丼…?』


と思ってしまう。なにしろ自分の前に出てきたそれは、どんぶりっぽい器に入った白いご飯の上に、卵でとじられたカツにしか見えないものが乗っていたのだから。


すると、そんなリセイの様子を、店の奥にいる、ティコナの父親らしき男の人がじっと見ていた。


まるで、何かを確かめようとするかのように。


けれどリセイの方はそれには気付かず、戸惑いながらも木でできたスプーンのような食器で<カツ丼(?)>を頬張った。


『…! 完全にカツ丼だ、これ……なんで? なんでこんな中世ヨーロッパっぽい街にカツ丼が……?』


などと頭によぎらせつつ、思いがけず出てきた<安心できる料理>に、食欲が掻き立てられていたのだった。


そうして食事を終えた時、店にいた客達の多くがいなくなり、静けさに包まれていることにリセイは気付いた。


『……忙しい時間は過ぎたってことかな』


リセイの推測は当たりだった。ちょうど仕事終わりの労働者達が一度に来店するタイミングに来たことで特に賑わっていたからである。


と、そこに、店の奥からあの男の人が出てきて、


「ここ、いいかな?」


リセイの向かいの椅子に手をかけながら訊いてきた。


「あ、はい…!」


咄嗟にそう応えたリセイの前に、男の人は静かに座る。


そうして、男の人は言ったのだった。


「リセイ…だったね。君ももしかして転生者なのかな……?」


「え……?」


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