報告

「あら、ティコナ、お友達?」


ティコナの母親だという女性は、彼女の後ろに立つ男の子を見て尋ねた。するとそれに合わせるかのように、


「お! ティコナにもついに春が来たか!?」


などという声が上がる。店の客らしき、いかにもな感じの中年男が真っ赤な鼻を向けて冷やかしたのだ。


「あはは、違うよ。マルム採ってた時にちょっと助けてもらったんだ」


まだ夕方だというのにもうすでに出来上がっているその客に向かい、ティコナは苦笑いを浮かべながらも明るく応えた。こうやってあしらっておけば大丈夫という慣れが窺える。


けれど、『助けてもらった』という言葉に、


「大丈夫だったのか…?」


店の奥から掛けられた声。一見しただけで生真面目そうな印象を受ける、三十代後半から四十になるかならないかという男の人がそこにいた。


それに対して、ティコナは柔らかい表情になり、


「うん。彼、リセイに助けてもらったから」


リセイの腕を取って引き寄せながら笑顔で言った。


「お、お前も<リ=セイ>ってのか? 実は俺もリィセってんだ。親父が英雄<リ=セイ>にあやかって付けたんだとよ」


「俺も俺も、リセーってんだよ。よろしくな、ボウズ!」


次々と上がる声にはかまわず、ティコナはリセイを引っ張って母親の近くまで行って、


「実はマルムの森にベルフが現れたんだ」


と話し掛けると、それまでの陽気な店内の空気が一変、


「ベルフだって!?」


明らかに緊張した声が上がった。


「それは本当なのか!? ティコナ」


「オオカと見間違えたんじゃないのか? いや、オオカが出るだけでも大事おおごとだけどよ」


とも。


それに対してティコナは、


「ううん。あれは間違いなくベルフだったよ。剥製と同じで角があったから」


それまでの柔らかいそれとは打って変わって真面目な表情で応える。その顔は、店の奥にいる男の人にどこか似ていた。


『間違いなくベルフだったよ』


ティコナの言葉に客達はざわめき、それぞれ顔をつき合わせて、


「おいおい、ベルフが出るとなると危なくて子供らをやれねえぞ」


「マジかよ、マルムの収穫はどうすんだ…?」


などと話し始める。


そんな中、店の奥にいた男の人が、どこか険しい感じの表情にもなって、


「まあ、無事だったんならいい。でも、マルムの収穫は当分、行かなくていい」


と言った。それに対してはティコナは、


「え? でもお父さん、それじゃマルムが……!」


困惑した様子で応えた。


「マルムのことは何とかする。とにかく森に現れたっていうそのベルフが退治されるか追い払われるかした後じゃないと行かせられない」


『お父さん』と呼ばれた男の人はますます険しい表情で言ったのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る