俺の彼女

いろいろ気になるところはあっても、リセイはなんとか今の世界で生きていける足掛かりは掴むことができた。


しかも、ティコナのお父さんのシン(=真一郎)が先輩転生者ということで、すごく頼りになった。


その上、


「リセイ、お父さんにどこか似てるね。安心する」


とかティコナが言ってくれた。その理由はすぐに分かった。


と言うのも、リセイがティコナの家に居候してることが近所に知れると、


「お前! ティコナの家に上がり込んだんだってな! 何のつもりだよ! ティコナは俺の彼女だぞ!」


開店前に店の前を掃除してたら、いかにもな<腕っぷし自慢の陽キャ>という感じの少年が、手下らしい少年二人を連れてリセイの前に現れた。


『うわあ…ありがちな展開……』


明らかに苦手なタイプを前に腰が引けながらも、ついそんなことを考えてしまってた。すると、


「何勝手なこと言ってんの? 私、トランと付き合ってなんかないでしょ!?」


それまでとは打って変わって気の強そうな口調で、ティコナが店の中から現れる。


その様子を見て、


『ああ、こっちのトランとかいうのが勝手に思い込んでるだけか……』


と察した。


なのにトランは、


「バーカ! お前はもう俺の彼女って決まってんだよ! 俺が一番強いんだからな! 強い男はいい女と付き合うことになってんだからよ!」


臆面もなく胸を張って言ってのける。本気でそう思ってるのが分かる姿だった。


するとティコナは、ものすごく嫌そうな表情かおで、


「男の子ってどうしてそうなの? 私、そういうのキライ! 女だって好きな相手くらい選べるんだから!」


などと言い返した。


『なるほど…基本的には力自慢がモテる世界だけど、ティコナはこの手の<脳筋タイプ>は好みじゃないってことか。


これはたぶん、ファザコンパターンだな……』


やり取りを見てて立てたリセイの推測は大当たりだった。ティコナは父親のシンのような真面目で勤勉で丁寧に人と接するタイプが好きだったのだ。このトランのような、ただの力自慢でガサツなだけのタイプは一番苦手としてたのである。


それを察したリセイに向かって、トランは、


「こんな弱っちい奴より俺のがお前には相応しいんだよ!」


と言いながら掴みかかってきた。


リセイにとっても一番嫌いなタイプだった。何でも力尽くで自分の思い通りにしようとか。


向こうの世界ではそう思ってても何もできなかった。ただひたすら目を付けられないように息を殺して視界に入らないようにするしかできなかった。


それなのに、この時のリセイは、掴みかかってきたトランの腕を取り、と思ったらその瞬間に体を捻ってするりとトランの背後に回り、腕を極めたまま地面に押し付けていたのだった。


「……え……?」


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