普通に話せる

こうして知り合ったティコナと共に、リセイは街へと戻る道を歩いた。


その道中、彼女は様々なことを話してくれる。元々おしゃべり好きの女の子なのだろう。


「ベルフはね、オオカって獣が魔素の影響で魔獣化したものって言われてるの。魔獣としての強さで言えば下の方だけど、私達人間にとってはオオカよりもずっと危険なんだ。


それでも、私達の街があるこの地方は魔素がすごく薄いからベルフは生まれないはずだったんだよね。それがどうしてこんなところにいたんだろう……?


でもとにかく役人には知らせなきゃ。ここら辺って、マルムがよく採れるから子供もお遣いでけっこうくるんだよ」


「マルム…?」


「ほら。これがマルム。私もこれを採りに来たんだ」


そう言ってティコナが見せたカゴの中にあったのを見て、リセイは、


『マッシュルーム…?』


と思った。見た目には完全にマッシュルームという感じのものがぎっしりと入っている。


『なるほどこれがマルム』


何気に得心がいって一人納得する。


「私達の街の料理には欠かせない食材の一つなんだよ。これが入ってるのと入ってないのとじゃぜんぜん違う料理になっちゃうんだから」


少し自慢げに話すティコナに、


「へえ、そうなんだ」


自然と相槌を返せた。


それについて、リセイは思う。


『なんか、普通に話せる……


例の能力のおかげもあるかもしれないけれど、それ以上に、人間関係があまり得意じゃなくて積極的になれない僕をバカにしてる感じがこのからはしないからかな……』


と。それもまた事実だっただろう。相手が明らかに自分を見下していると感じると、誰しもあまりいい気はしない。リセイの場合はそれが<精神的な萎縮>という形で出てしまう。だから上手く話せない。


けれど彼女からはそういうのが感じられないからリラックスできるというのもあった。


『彼女みたいな人ばっかりだったら、向こうの世界ももっと生き易かったんだろうな……』


そんなことも思ってしまう。<たられば>に意味がないのは分かっていても、つい。


「そう言えば英雄リ=セイもマルムが好きだったらしいんだ。だから私達の街に彼が来た時には街をあげてマルムをたっぷり使った料理で歓迎したんだって。それが喜ばれて他の地方にも彼が広めてくれたから街も有名になったって」


嬉しそうに英雄譚を語る彼女の話を聞いているのは気持ちよかった。ここにきて初めて出会った人が彼女でよかったと素直に思えた。


ただ、街への道のりは、時計がないから正確な時間は分からなくても間違いなく一時間以上掛かってる感じだったので、現代日本に生まれ育ったリセイには少々大変だったけれど。


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