能力が発動

『君こそ大丈夫だった……?』


人間関係は得意ではないけど、最低限、必要な会話くらいはできる。だからその程度は離し掛けることもできた。


すると女の子は、


「はい、私は大丈夫です。でも、この辺にはベルフは来ないはずだったんですけど、それが急に現れたから、びっくりしちゃって」


と、ホッとしたような笑顔で言った。そんな姿がまたすごく可愛らしい。だから古塩理生ふるしおりせいも思わず頬を染めてしまう。


それがまた女の子を逆に安心させたのか、


「あなたは他の国から来た方ですか? ベルフのことはよく知らないみたいですね」


親しげに話し掛けてくれた。


古塩理生ふるしおりせいは、自分から話し掛けるのは特に苦手だった。話し掛けてもらえれば受け答えくらいはできるけれど、自分からはそれこそ何を話し掛ければいいのか分からない。


さらに、普段は、話し掛けられるのも決して得意ではなかったものの、今は何とか、


「あ…うん。そうなんだ。人に連れてこられたんだけど、その人とはぐれちゃって、右も左も分からなくて途方に暮れてたとこに君の悲鳴が聞こえて……」


などと受け答えができてる。それについても、


『…もしかしたらこれも、<どんなことでも結果的にあなたの望むとおりになる能力>のおかげなのかな……』


とも思ってしまう。そしてまさにそのとおりだった。


『ちゃんと話さなくちゃ』


無意識のうちにそう思っていたことで、能力が発動していたのである。


それは、無意識でも思ったことが実現するということも表していたものの、この時の古塩理生ふるしおりせいはそこまで気付いていなかった。


とにかく初対面の女の子となんとか普通に話せていたことにホッとしていただけだ。


そんな彼に対して女の子はますます親しみを感じたのか、


「私の名前はティコナ。あなたは?」


元の世界では一度もなかった、


『女の子の方から自己紹介をしてくれる』


というイベントが発生した。


それに少し慌てつつも、


「あ、と、僕は理生。リセイって呼んでくれたらいいよ」


まあまあ自然に応えることもできた。


瞬間、彼の名前を聞いたティコナと名乗った女の子が驚いたような表情になり、


「リセイ…!? あなたも英雄リ=セイにあやかって名前をもらったの?」


また問い掛けてくる。


しかも、


「この国を魔王から救った英雄リ=セイのことはあなたの国にまで広まってたんだね!」


驚きと同時にすごく嬉しそうにも見えた。


「英雄? 魔王……?」


定番と言えばあまりにも定番の単語に、


「ははは……」


などとへんな笑いもこみ上げてくる。


そんな彼に、ティコナは、


「英雄リ=セイが最初に倒した魔獣もベルフだって言われてるよね!


あなたももしかしたら英雄になる人!?」


などと興奮した様子で声を上げたのだった。


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